レイ・ダリオ氏: 債務危機を避けるには増税かドルの下落は避けられない

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が自身のブログでアメリカ経済の先行きと財政問題について語っている。

関税の騒ぎの後

4月の株価下落もあり、大騒ぎとなったトランプ政権の関税政策だが、最後まで残っていた中国に対する莫大な関税も一旦は大幅に引き下げられ、株式市場は今のところ反発している。

それでもトランプ政権に不安を持っている人は多いだろうが、ダリオ氏は現状について次のように書いている。

アメリカと中国の取引の第1段階はまともな形で素早く取り纏められ、ドナルド・トランプ氏のチームはサウジアラビアで中東諸国と投資の契約を取りまとめようとしている。予算の問題について米国議会と良い合意に至るのも時間の問題だろう。

トランプ氏が法外な関税の税率を発表した時はその過激なやり方に関しては反対していたダリオ氏だが、現状を比較的楽観しているように見える。中東とのディールも結ばれ、議会とは債務上限引き上げで合意し、前政権時の減税の恒久化も可能となった。

ダリオ氏は元々大統領選挙の前にも関税に好意的な見方をしていたから、選挙公約となっていた政策が過激でないやり方で実行されるならば、むしろ歓迎するのだろう。

ダリオ氏が関税を支持するのは、当然だが、アメリカの財政赤字を懸念しているからである。アメリカではコロナ後の金利上昇により、米国債の利払い費用が財政赤字の半分ほどに達している。

財政赤字は当然ながら米国債の新規発行によって賄われており、新規の国債は新規の利払いを呼ぶ。米国債の発行がねずみ算式に増加する状況が、4月の株安における米国債の急落を引き起こしたのである。

だからトランプ政権は税収を増やすために、あらゆる税金の中からその半分ほどを外国人が支払う税金である関税を選んだ。

アメリカ国民は関税に対し、消費税や所得税の増税以上に感情的になっているが、全額をアメリカ国民が負担する消費増税や所得増税の方が良かったとでも言うのだろうか。ダリオ氏ら金融のプロフェッショナルの見方は冷静である。

ダリオ氏は次のように述べている。

これまで起こっていることを見ると、ドナルド・トランプ氏はこれまで放置されてきた重要な問題に、予測がやや困難だが生産的な方法で取り組もうとしている。

アメリカの債務危機

一方で、ダリオ氏はアメリカの根本的な問題が関税などではないことを強調している。ダリオ氏は次のように述べている。

米国政府やその他いくつかの国の政府は多額の負債と赤字を抱えており、市場や経済は日々のニュースや政治家個人の選択よりも主にそちらに影響されることになるだろう。

米国債の利払い増加によるアメリカの財政問題は、4月の株安で米国株と米国債の同時下落を引き起こしている。

普通、株価が下がれば売却資金がドル預金に回り、銀行は預金で米国債を買うので、国債価格は上昇し金利は低下する。

しかし4月の株安では株価と国債が同時下落した。それは過去100年ほどで2回しかなかったことであり、その両方のケースにおいて米国株は長期の下落相場を経験している。

4月の相場急変は、アメリカ経済がその状況に片足を突っ込んでいることを意味している。

緊縮財政か紙幣印刷か

米国債の利払い増加の問題は、結局どういう結果を引き起こすのか。ダリオ氏は次のように述べている。

言い換えれば、このように負債が多額であることによって、各国政府は財政政策か負債のマネタイゼーションによって資金繰りをしなければならなくなるだろう。そしてそれはそれぞれ大きな結果を引き起こすことになる。

ダリオ氏の主張は簡潔である。借金の利払いの問題は、赤字削減によって借金を減らすか、あるいは国家の場合には紙幣印刷によってどうにかするしかない。

ダリオ氏は次のように続ける。

支出削減と増税、そして金融緩和の組み合わせがある程度必要になるだろう。それは誰が大統領であるかとは関係がない。

結論

ダリオ氏の結論は、『世界秩序の変化に対処するための原則』に書いた予想からまったくブレていない。結局、緊縮財政と紙幣印刷の組み合わせが必要になるということである。

だからトランプ政権はイーロン・マスク氏のDOGE(政府効率化省)によって政府支出を減らし、関税によって税収を増やしているのである。

だが緊縮財政を行えば経済と株価にはマイナスであり、紙幣印刷を行えばドルにマイナスである。

つまりアメリカの財政問題は、株価かドルのどちらかを犠牲にしなければ解決しない。そして筆者は特にドルの犠牲が大きいと考えている。それはつまり、ゴールドやシルバーなどの貴金属がドルの代わりに高騰することを意味するだろう。

だからダリオ氏の『世界秩序の変化に対処するための原則』では、基軸通貨の衰退について詳細に研究されているのである。ドルの価値下落は避けられないだろう。


世界秩序の変化に対処するための原則