引き続き、機関投資家の米国株買いポジションを開示するForm 13Fである。今回はかつてジョージ・ソロス氏のクォンタムファンドを運用したことで有名な、スタンレー・ドラッケンミラー氏のDuquesne Family Officeのポートフォリオを紹介したい。
トランプ政権とソロスファンド
昨今、ソロスファンドの関係者の活躍が目立っている。それはもちろん、トランプ大統領が選んだ財務長官が、元Soros Fund Managementのスコット・ベッセント氏だからである。
そしてベッセント氏の後にソロス氏にファンドの運用を任されているドーン・フィッツパトリック氏が、4月の株価下落よりも前に、ベッセント氏が株価下落を容認する可能性を正しく指摘していた。
そしてドラッケンミラー氏はベッセント氏の先輩にあたる。ドラッケンミラー氏がクォンタムファンドの運用責任者だった頃に、ベッセント氏はロンドンオフィスを任されていた。
そして彼らは共に1992年のポンド危機であの有名なポンド空売りを行い、巨額の利益を得たのである。
ドラッケンミラー氏の金利上昇予想
さて、そのドラッケンミラー氏の去年の段階での読みは、トランプ政権でアメリカ経済は過熱するというものだった。
ドラッケンミラー氏はかつての部下であるベッセント氏の能力を認めながらも、金利上昇により財政赤字の半分が米国債の利払いとなっているアメリカの財政状況はベッセント氏でもどうにもできないと考え、アメリカは結局インフレと金利上昇を避けられないと予想していた。
そして株式市場は金利上昇によってダメージを受ける可能性があるとして、経済過熱を予想したにもかかわらず、次のように述べて株高は予想しなかった。
従って株式市場は強い実体経済と、その結果としての金利上昇のはざまで揺れることになる。
4月の株安と金利上昇
ドラッケンミラー氏の予想はある意味では外れ、ある意味では当たったことになる。
まず、ベッセント財務長官はドラッケンミラー氏が考えていたよりも頑張ったと言える。ベッセント氏は最初、関税で株価が下落してもそれを容認する構えを見せた。株安を許容してでも、関税から得られる税収を取って、財政赤字を解決しようとしたのである。
この点についてはドラッケンミラー氏がベッセント氏を甘く見、フィッツパトリック氏の方が正しかった部分である。
だがその後、債券市場はドラッケンミラー氏の予想通りに動いた。株安にもかかわらず突然金利が急騰し始めたのである。
アメリカの長期金利のチャートは次のように推移している。

4月の半ばまで株安に沿って金利も下がっていたが、突如金利が上がり始めていることが分かる。この動きは過去100年ほどでアメリカ経済が窮地に陥った2回しか起きていないということを、以下の記事で指摘しておいた。
株安は気にしていなかったベッセント氏だが、金利上昇には抗えず、トランプ大統領に関税の延期を進言したのである。
やはりアメリカの財政赤字の問題はドラッケンミラー氏の予想したように深刻であり、株価が反発した後も長期金利は上昇トレンドを維持している。
金利上昇が株式市場に影響を与えるというドラッケンミラー氏の去年の予想は、むしろ今からだということになるだろう。
ドラッケンミラー氏の米国株ポートフォリオ
さて、では3月末のポジション開示では、ドラッケンミラー氏のポートフォリオはどうなっているのだろうか。
まず、Form 13Fに開示されているポジション総額31億ドルとなり、前回の37億ドルから20%ほど減額されている。去年の段階ではアメリカ経済に対して強気予想をしていたドラッケンミラー氏だが、株価については警戒していたこと、また関税の雲行きが怪しくなっていたことから、リスクオフの姿勢を取っていたのだろう。
そのことは個別株の選択を見ても分かる。まず報告されている最大ポジションは、前回12月末の開示と変わっていない。DNA検査をするNateraであり、ポジション規模は5億ドルである。

前回から変わったのは2番目のポジションで、イスラエルの製薬会社であるTeva Pharmaceuticalsが大幅に買い増されている。ポジション規模は2億ドルとなっている。

恐らくは今年に入って株価が下落するにつれ保有株数を増やしたのだろう。Teva Pharmaceuticalsの株価収益率は現在の株価で6.1倍だから、下落していた頃の株価水準はそれよりも更に割安だったことになる。
ディフェンシブ銘柄とされる製薬株のうち、特に割安のものを買い増している辺り、株式市場全体の上昇を信じていないドラッケンミラー氏の姿勢が感じられる。本当に買いだと思える株は買うし、株価下落でより割安になれば買い増しはするが、割高な大半の米国株には興味がないのだろう。
米国株のバリュエーションについては、去年のデイヴィッド・ローゼンバーグ氏の意見が役に立つだろう。
結論
ドラッケンミラー氏は割安な個別株には興味があるが、米国株全体にはやはり警戒しているものと見られる。ドラッケンミラー氏が見ているのは、かつての部下であるベッセント財務長官と同じく金利である。

金利と株価の関係については、以下の記事で見通しを書いておいた。優れた個別株は買うが、米国株全体は魅力的と考えない点で、筆者とドラッケンミラー氏は共通している。
米国株の長期パフォーマンスを予想することは難しくないからである。レイ・ダリオ氏の『世界秩序の変化に対処するための原則』で書かれている通りになるだろう。

世界秩序の変化に対処するための原則