さて、機関投資家の米国株買いポジションを開示するForm 13Fの時期がやってきた。まずはジョージ・ソロス氏が保有しドーン・フィッツパトリック氏が運用するSoros Fund Managementのポートフォリオを紹介したい。
3月末のポジション開示
いつも楽しみの多いForm 13Fだが、今回は特別に楽しみにしていた。何故ならば、今回の開示は3月末のものであり、4月の株価下落の直前のものだからである。アメリカの株価指数であるS&P 500は次のように推移している。

株価は3月には既に下がっていたが、4月に入ってから大きく下がったのである。だから3月末のポジション開示は完璧なタイミングだろう。
前任者ベッセント氏
さて、ソロス氏から運用を任されているフィッツパトリック女史は、3月前半の段階でトランプ政権が株価下落を許容するという予想を誰よりも早く出していた。
彼女がその予想を出来たのは、Soros Fund Managementにおいてスコット・ベッセント財務長官が彼女の前任者であることも大きいだろう。フィッツパトリック氏はベッセント氏の数年後に同じ地位を継いだ。彼女は次のように言っていた。
スコットは非常に賢い人だ。彼は優秀で、歴代の財務長官の中でももっとも市場に精通した人物だろう。
スコットの発言は文字通りに受け取るべきだ。彼とトランプ大統領は10年物国債の金利を重要視すると言った。だからむしろ市場が過熱し過ぎないように気を遣っているはずだ。
だから彼女は下落前に何か手を打っていたと考えるのが普通だろう。では開示はどうなっているのか。
ソロスファンドのポートフォリオ
まず、Form 13Fに掲載されているポジションの総額は、あまり変わっていない。前回12月末が66億ドルで、今回が67億ドルだ。
Form 13Fには買いポジションのみが開示され、空売りポジションは開示されないから、この開示から必ずしもSoros Fund Managementのポートフォリオの全体像が分かるわけではない。
だが個々のポジションを見てゆけばもう少し詳しいことは分かる。目を引くのが、4番目に大きいポジションとして、超長期米国債ETF(NYSEARCA:TLT)のプットオプションの買い(価格が上がった時に利益の出るポジション)が含まれていることである。
これは興味深いトレードである。国債の価格上昇は金利低下を意味するから、多くのヘッジファンドマネージャーらが金利上昇を恐れていた時に、フィッツパトリック氏はベッセント財務長官が金利低下を目指すシナリオに賭けていたわけである。インタビューの言葉通りということだ。
そして例えば30年物米国債の金利は次のように推移している。

株価下落中の金利上昇
微妙だ。確かに株安によって金利は一度急落(債券価格は上昇)したから、フィッツパトリック氏の読みは先ず当たったことになる。
賭け方が単なる買いではなくプットオプションであることも彼女の読みの正しさを物語っている。プットオプションは原資産の価格上昇のほかに、ボラティリティ(価格の上下動の激しさ)の増加によっても利益が増える。
だがその後金利は急上昇した。彼女がその後何処で利益確定したのか(あるいは果たして利益確定したのかどうか)は、3月末の開示からは分からない。しかしプットオプションは、金利が一度下がってから元の水準に戻ってきたとしても、ボラティリティの増加だけで利益が増えるわけだから、このトレードは彼女にとって悪くないトレードだったはずである。
個別株ポジション
個別株はどうだろうか。最大ポジションは相変わらずダンボールなど紙による包装を提供するSmurfit Westrockで、株数は前回12月末から3%ほど減らされているがほぼ変わらず、金額は3億ドルである。

前回2番目の大きさだったAlphabet(Googleの親会社)はほとんどが売却されている。代わりに2番目となっているのがソーラーパネルを提供するFirst Solarで、金額は2億ドルである。
この銘柄は1株当たり純利益の成長率が55%と予想されているにもかかわらず、株価収益率は7.9倍である。株価は4月の下落後に急上昇している。

3番目は製薬会社のAstraZenecaで、これはディフェンシブ銘柄という意味だろう。金額は2億ドルである。

結論
フィッツパトリック氏の予想は、トランプ政権が株価下落を許容すると予想した点、ベッセント財務長官が金利低下を重視すると予想した点において正しかった。
その後の株価下落時のトレードの詳細は3月末の開示からだけでは分からないが、高成長・低株価収益率の銘柄を選好するなど銘柄選びの基準も分かりやすく、読者にも参考になるだろう。
ベッセント財務長官の低金利を目指す戦略については、株価下落でも株価上昇でも結局金利が上がってしまうという、彼にとっては災難な状況となってしまった。
この状況についてフィッツパトリック氏が今どう考えているのか、次のインタビューが楽しみである。

ソロスの錬金術