ニール・ハウ氏、30年近く前に2020年代の戦争勃発を予想

歴史家のニール・ハウ氏が著書『フォース・ターニング』において、アメリカの歴史を振り返り、アメリカの歴史のこれまでの流れとこれからの動向について語っているので紹介したい。

政治の長期サイクル

ハウ氏は、債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏がBridgewaterのレイ・ダリオ氏や自分と同じことを言っていると言及していた人物であり、ダリオ氏よりも数十年早く歴史上のサイクルの研究を始めていた人物である。

ハウ氏によれば、アメリカは(そしてすべての文明は)新たな政治体制の構築とその崩壊を何度も繰り返している。

ここで重要なのは、ダリオ氏も同じことを言っているが、新たな政治体制が出来てからそれが崩壊するまでの間隔が大体80年から100年程度であることである。

ハウ氏は著書の中で、アメリカの歴史を2度の世界大戦の頃から始め、そこから遡って次のように言っている。

日本による真珠湾攻撃から南北戦争の始まりとなったサムター要塞の戦いまでは85年が経っている。この間隔は、サムター要塞の戦いからアメリカ独立宣言までの間隔とまったく同じである。

世界大戦より前にアメリカで政治体制が大きく変わったのは南北戦争である。その前は、イギリスから独立したアメリカ独立宣言だろう。

危機の季節

ハウ氏は、新たな政治体制が生じてからそれが壊れるまでの一連のサイクルを4つの「季節」に分割し、その国の政治体制が大きく変わるこの期間のことを「危機の季節」と呼んでいる。

そしてハウ氏はアメリカの母体となったイギリスの政治サイクルまで遡り、イベントの年を危機のピークに修正した上でアメリカ(建国以前はイギリス)のサイクルを次のように纏めている。

  • 薔薇戦争からアルマダの海戦まで: 103年
  • アルマダの海戦から名誉革命まで: 101年
  • 名誉革命からアメリカ独立戦争まで: 92年
  • アメリカ独立戦争から南北戦争まで: 82年
  • 南北戦争から第2次世界大戦まで: 81年

薔薇戦争はイングランドにおけるチューダー朝の始まりであり、アルマダの海戦はスペインに対するイングランドの勝利の瞬間で、名誉革命はプロテスタントがイングランドの支配を確立した出来事であり、以降はアメリカのサイクルが並べられている。

そして第2次世界大戦のピークである1944年に最後のサイクルの間隔である81年を足して、次の危機は2025年近辺ではないかと予想している。

次の「危機の季節」

こう書けば、ハウ氏のこの『フォース・ターニング』は最近書かれた本なのかと思うかもしれない。実際、コロナ後に執筆されたダリオ氏の『世界秩序の変化に対処するための原則』と同じ結論に達している。

だが『フォース・ターニング』の出版は、最近どころか1997年なのである。2018年のロシアのウクライナ侵攻やその後のパレスチナ情勢などを新たな「危機の季節」の始まりだと考えれば、その予想はほぼ当たっている。

ハウ氏やダリオ氏のサイクル理論によれば、まだ危機の季節はピークに達していないだろうから、戦争や不況はこれから悪化してゆくということになる。

だからダリオ氏は米国債の下落リスクに何度も警鐘を鳴らしている。

危機は避けられないのか。しかし、ハウ氏は古い秩序の崩壊が良い変化に繋がったこともあるとして、次のように纏めている。

サイクルの終わりとなる危機は必ずしも全面戦争を必要としない。必要なのは古い世界秩序の死と、何か新たなものの再生だ。

危機は破壊をもたらし得るが、新たな観点や新たな英雄、生活水準の急速な向上ももたらす。

例えば日本では自民党が崩壊しかかっているが、それは悪いことばかりではないだろう。そして興味深いことに、戦後の自民党の支配が始まってからちょうど80年である。

国際政治経済を正しく理解し、戦争と不況による被害を避けることができれば、秩序崩壊はむしろ良いことである。

長期サイクルを理解することである。ハウ氏の『フォース・ターニング』はまさに今読むべき本であると思う。


フォース・ターニング