DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏がBloombergのインタビューでアメリカの債務問題について語っている。
アメリカの政府債務
著名なヘッジファンドマネージャーが今年皆気にしているのは、アメリカの財政問題である。
コロナ後のインフレによる金利上昇で米国債の利払いが大幅に増えたことから、今やアメリカの財政赤字の半分が国債の利払いという状態になっている。
米国政府には借金を返すお金がないため、借金の利払いは新たな借金で行われることとなり、ゼロ金利だった時代とは違ってアメリカの政府債務はこれから毎年、指数関数的に増加してゆくことになる。
だからトランプ大統領は金融緩和で金利を下げて、債務負担を強制的に減らそうとしているのである。
景気後退の財政赤字
アメリカの財政赤字は次のようになっている。

赤字が大きく増加している期間が何度かあるが、2008年はリーマンショック、2020年はコロナショックである。
ガンドラック氏は次のように言っている。
リーマンショックやコロナショックの事例では、アメリカの財政赤字は平均でGDPの8%分も増加した。
景気後退が来れば、景気を刺激するために財政赤字が大幅に増加するのが普通である。
今はアメリカは景気後退になっていない。だから、米国債の利払い増加が問題になりながらも、財政は危機的状況にはなっていないのである。
しかし景気後退が永遠に来ないことは有り得ない。10年に1回ほど起きるというのが普通である。
次のアメリカの景気後退
であれば問題は、次に景気後退が来た時に財政赤字がどうなり、債務問題がどうなるかということである。
ガンドラック氏は次のように言っている。
では次の景気後退で、財政赤字がGDPの6%という今の数字から10%、12%、14%へと上がったらどうなる?
そうなれば、アメリカ政府の税収のすべては国債の利払いに行ってしまい、アメリカは破綻するだろう。
上述の「平均8%」という数字を足せば、財政赤字は14%になる。
ただでさえトランプ大統領が躍起になって米国債の利払いを利下げで減らそうとしているのに、債務が更に増えればどうなるのか?
更に、アメリカの財政は国債の借り換えという時限爆弾も抱えている。コロナ前に金利が低かった時に借りた米国債については、米国政府は今でも低い金利を支払っているが、そうした国債に満期が来て借り換えになると、今の高金利で借り換えなければならないのである。
ガンドラック氏は次のように説明している。
アメリカの金利は5年前、7年前、12年前の水準から上がっており、今後数年で満期が来る米国債の金利の平均は3%弱であるのに対し、今の政策金利が3.78%、国債の金利が4%や4.5%だから、単に国債の満期が来るだけでアメリカの借金の利払いは増えてゆく。
アメリカの財政の行方
アメリカの財政問題はこれからどうなってゆくのか。ガンドラック氏は次のように述べている。
税制や負債がこのままならば、2030年まで、つまり5年後までにアメリカの税収の60%が米国債の利払いで消える可能性は十分にある。
もっと過激に米国債の金利が9%まで上昇し、財政赤字がGDPの12%まで上がるという悲観的な想定すれば、2030年頃には財政赤字は税収の120%まで増加するだろう。
すべてはトランプ政権の財政規律とインフレ次第だ。トランプ政権は金融緩和で金利を抑えようとしているが、その結果インフレが加速し、最終的に利上げをしなければならなくなれば、ガンドラック氏の言う悲観的なシナリオに突入する可能性もゼロではない。
結論
財政問題は、遠い未来には問題になると昔は言われたものだ。だがインフレと金利上昇によって、実際に国債の利払いは財政赤字の半分にまで増加している。
共和党のフィル・グラム氏が言っていたことを思い出したい。
ガンドラック氏は次のように言っている。
60年後の問題と言われていたものが、その10年後には40年後の問題になり、10年後の問題になり、今では5年後の問題となっているわけだ。
これは、長期の米国債は危ういということを意味している。
米国債が大量に発行されるということは、債券市場では米国債の供給が大きく増えるということである。
米国債の発行がこれから指数関数的に増加し、かつそれを買いたいという需要が同じように増加しない場合、需要と供給の観点から言って米国債の下落は避けられない。
最終的にはそれは紙幣印刷によって中央銀行が買い取るしかないわけだが、そうするとドルの価値はその犠牲になるだろう。
アメリカの債務問題によってドルが犠牲になるシナリオについては、Bridgewaterのレイ・ダリオ氏が新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)で詳しく解説している。
ちなみにこのダリオ氏の本には、日本のアベノミクスが「政府債務の処理に失敗した場合の例」として紹介されている。名誉なことである。日本語版はないが、英語が読める人は是非読んでみてほしい。
