レイ・ダリオ氏: 米国債の買い手不足問題を無視する金融市場はリーマンショック前の熱狂と同じ

引き続き、世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者レイ・ダリオ氏のMaster Investorによるインタビューである。

今回は、米国債の買い手不足の問題と2008年のリーマンショックを比較している部分を紹介したい。

米国債の大量発行

ダリオ氏は、今年に入ってから米国債の買い手不足の問題に警鐘を鳴らし続けている。コロナ後の金利上昇でアメリカでは米国債の利払いが財政赤字の半分に達しており、米国政府は借金の利払いを新たな借金で返している。

毎年借金が利払いの分増えてゆくのだから、財政赤字を何とかしない限り、米国債の発行が指数関数的に増えてゆくことは数学的に避けられない。

だが、ダリオ氏がワシントンDCの政治家たちと話したところによれば、財政赤字が減らされる可能性は5%らしい。

ということは、米国債の買い手の方も指数関数的に増えるのでない限り、米国債の需要と供給は何処かの時点で壊れることは避けられないということが分かる。

しかし一方で、アメリカの長期金利は高いままだが、今のところ落ち着いているように見える。

それは、以下の記事で書いた通り、筆者が春の株安時に買い増した個別銘柄の買い増し分を最近まで利益確定しなかった理由でもある。金利が上がらない限りまだダリオ氏の予想する危機ではないということである。

米国債は下落を始めるのか

だが、ダリオ氏の言う米国債の問題は数学的に明らかだ。では、それはまだ市場に織り込まれていないのか? それとも織り込んだ上でこの状態なのか?

ダリオ氏は、債券市場だけの問題ではないとして、次のように答えている。

債券市場と為替市場の両方だ。

そしてそれはまだ市場に織り込まれていない。

ダリオ氏はドルの下落も予想している。

リーマンショックの事例

何故米国債やドルが最終的には下落すると言えるのか? ダリオ氏は次のように述べている。 

わたしが本を書いた理由は、その仕組みを説明したいと思ったからだ。

本とは、ダリオ氏がアメリカの財政破綻を予想した著書『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)のことである。

金融市場の仕組みとは何か。ダリオ氏は2008年のリーマンショックの例を挙げている。

わたしは2007年と2008年にアメリカの財務省に行き、金融市場の仕組みを説明した。

2009年と2010年(訳注:欧州債務危機の直前)にはECB(欧州中央銀行)に行って同じことをした。

説明した仕組みというのは市場における需要と供給の話だ。だが両方のケースで彼らは、そんなことは市場に織り込まれていないじゃないか、どうしてそんなことを心配するのかと言った。

金融市場では、一部の人にとって最初から明らかなことであっても、かなり遅くにならなければ織り込まれない。

ジョージ・ソロス氏は著書『ソロスは警告する』で、リーマンショックのバブルの天井で次のように書いている。

2007年春、ついに終わりのはじまりがやって来る。住宅ローン大手のニュー・センチュリー・ファイナンシャル社が、サブプライム問題が原因で倒産したのだ。

そこから先は、私のバブルのモデルでいう「黄昏の期間」である。住宅価格が下がりはじめているにもかかわらず、ゲームの終了が読み取れない参加者が、まだ大勢残っている段階だ。


ソロスは警告する

相場は参加者全体の意見を反映するものだから、ダリオ氏やソロス氏のような一部の人々がリーマンショックを正しく予想したとしても、それが多数派の意見になるまでバブルになっている資産は上がり続ける。

リーマンショックにおいても、2006年辺りからアメリカの不動産バブルは危険だと忠告していた人がいた。実際にバブルが崩壊したのは2008年だった。

そしてダリオ氏は今の米国債も同じだと言いたいのである。ダリオ氏は次のように述べている。

実際に危機が起きるまで、人々はいつも油断したままだ。

自分で考えること

金融業界で何度もバブル崩壊をトレードしてきた人間にとっては、この状況はいつものことである。

だがダリオ氏は次のようにも補足している。

だから皆に聞きたい。それは織り込まれているか? わたしの答えはノーだ。

だがわたしを信じろと言いたいわけではない。わたしの本に書かれている市場の仕組みの説明を見て、金融市場が実際にわたしの言うように動いているのを確認してほしい。

わたしは自分が市場を予想するために使ってきた秘伝のタレを公開しているだけだ。政治家や読者は、市場が本当にそう動いているのか、もし動いているならば自分はどうすれば良いのかを自分で判断できるはずだ。

ダリオ氏は新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)において、これまでの金融市場の事例を解説しながら、これまで何度も実際にそうなってきたということを説明している。

その事例の1つは、日本において日本円が暴落した事例である。だが、アベノミクス以後日本円の為替レートは半分になったにもかかわらず、日本人の多くは日本円が暴落したという自覚すらないのではないか。

だが、それこそが政府債務の一番政治的に簡単な解決策が通貨安政策であることの証明である。日本の場合、まだそれでも何も解決していないのだが。日本円はこれからどれだけ下落していかなければならないだろうか。

ダリオ氏の新著はまだ英語版しか出ていないが、英語が読める人は原著で読むべきである。日本語版が出る頃には、もうすべてが終わっている可能性があるからである。


How Countries Go Broke