アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏が、Bloombergのインタビューでトランプ政権のアルゼンチンに対する経済支援について語っている。
トランプ大統領とミレイ大統領の会談
アメリカのトランプ大統領とアルゼンチンのミレイ大統領が今月、ホワイトハウスで会談した。
ミレイ氏は、政治家の野放図な支出によりハイパーインフレで苦しんでいたアルゼンチンの財政赤字を黒字に転換させることでハイパーインフレを退治した政治家である。
政府による徴税と支出を、国民の同意なしに財産を奪うものであると見なすオーストリア学派の経済学者であるミレイ氏は、アルゼンチンに存在した省庁の大半を廃止するなどの劇的な改革を行っており、同じく財政赤字を減らさなければならないトランプ大統領に気に入られている。
今回の会談では、アメリカがアルゼンチンに400億ドルの経済支援(200億ドルの通貨スワップと200億ドルの融資枠)を行うことが発表され、しかもトランプ大統領がアルゼンチンの中間選挙でミレイ氏の党が勝利することを支援の条件に付与したため、アルゼンチン国内外で波紋が広がっている。
支援に前のめりのトランプ大統領
今回のアルゼンチン支援に対して、サマーズ氏は次のように述べている。
今回のアルゼンチン支援のやり方は伝統的なものではない。
まず、今回の支援はアメリカが単独で行うものだ。歴史的には普通、アメリカは負担やリスク、責任を他の国々と分かち合うことを望む。
トランプ政権は、例えば国防の分野では他の国に負担を求めることが非常に多かったのに、今回は何故か単独ですべての資金を用意している。
サマーズ氏が暗に言いたいのは、これはミレイ大統領に対する贔屓ではないのかということだ。そしてそれはそうだろう。しかもトランプ氏は、ミレイ氏が中間選挙で勝たなければ支援はしないと条件を付けている。
また、サマーズ氏はアメリカが通貨スワップにより、ペソの下落によって損害を受けかねないことを懸念している。
サマーズ氏は次のように述べている。
今回のやり方が伝統的ではないのは、2つ目にはアメリカが取っているリスクの大きさだ。アメリカはこれまで、市場で攻撃を受けている固定レートの新興国の通貨を購入したことはない。
だからこれはアメリカにとって投機になる。
下落するアルゼンチンペソ
アルゼンチンの通貨ペソは下落している。アルゼンチンは元々、為替レートを変動させずに決められた変動を守るように制御していた。
変動させると市場でペソが売り浴びせを受けるため、そうせざるを得なかったのである。
だが今回、ミレイ大統領による改革で大幅な財政赤字が財政黒字になったことにより、アルゼンチンは今年4月にIMFから200億ドルの融資を受けられることとなった。
だがIMFはその条件として為替レートをある程度自由に変動させることを求めた。アルゼンチンはこれを飲んだのだが、その後のドルペソの為替レートは次のようになっている。(上方向がドル高ペソ安である。)

高金利通貨の為替レートは金利の分だけ下落するように出来ている。アルゼンチンの金利はミレイ氏のお陰でインフレが収まりかなり下がったのだが、それでもまだ29%である。
ペソの保有者にとっては29%の金利を得る代わりに同じだけの為替レート下落を受ける場合がイーブンということになるので、年間29%の為替レート下落は普通ということになるのだが、上のチャートを見れば29%分を差し引いてもペソ安の幅は大きいことが分かる。
日本人にはよく分かることだが、通貨安はインフレを呼ぶので、アルゼンチンは今、IMFの融資を受け入れた代償に通貨安インフレに直面しているのである。
アルゼンチン経済の先行き
ミレイ大統領はこれから中間選挙を迎えることになる。財政黒字は達成したが、それは同時に政府支出をかなり大幅に減らしたということであり、給料を減らされた公務員などから激しいバッシングを受けている。
また、そもそもハイパーインフレになったような経済の立て直しは簡単に行くものではなく、通貨安などの問題に直面しているわけである。
結局、インフレ政策は麻薬のようなものであり、止めなければ通貨安が止まらないが、止めるためにも大変な苦労を必要とするのである。
だがミレイ大統領はインフレ政策を嫌っている。中央銀行による紙幣印刷は国民に対する詐欺だと言い切っている。
そして国民から強制的に税金を徴収し自分の好きなように票田にばら撒く政治家のことを批判しているのである。
ミレイ氏の記事にはまさか政治家が言うのかと思うような言葉が並んでいる。中間選挙では、アルゼンチン国民がミレイ大統領の身を切る改革に耐えられるのかどうかが問われる。
ミレイ氏と同じオーストリア学派の大経済学者、フリードリヒ・フォン・ハイエク氏の『貨幣論集』における以下の言葉が思い出される。アルゼンチンはどうなるのだろうか。
将来の失業について責められる政治家は、インフレーションを誘導した人びとではなくそれを止めようとしている人びとである。
