ピーペンブルク氏: 金融機関の破綻で投資家が金融資産を没収される可能性

エゴン・フォン・グライアーツ氏率いるVon Greyerzのパートナーであるマシュー・ピーペンブルク氏が自社配信動画で、金融危機が起こった場合に金融機関の破綻で一般の投資家の金融資産が没収される可能性について語っている。

貴金属の価格上昇

ゴールドやシルバーの価格が高騰している。コロナ後の金利上昇で米国債の利払いがアメリカの財政赤字の半分ほどに達したこと、アメリカが対露制裁に従わない無関係の国々をドルを使った制裁で脅して回っていることから、中東諸国やBRICS諸国などアメリカの顔色を伺わなくて良い国々の中央銀行がドルを売ってゴールドを買っているからである。

買いの主体は中央銀行や機関投資家であり、一般の人々はむしろ株式に夢中である。だが、金価格がかなり上がっていることから、それを商売に使って顧客を集めている銀行や証券会社もある。

だが、ピーペンブルク氏の所属するVon Greyerzでは、ゴールドを金融機関経由ではなく現物で保有することを推奨している。

金融機関を通したゴールド保有のリスク

何故か。銀行や証券会社の口座や、ETFなどを通してゴールドを買うことのリスクとはどういうものか。

ピーペンブルク氏は次のように説明している。

銀行は、ゴールドを保有するための特別の口座をさかんに喧伝している。だがそういう口座も銀行の貸借対照表の内側にある。つまり、銀行はあなたの資産を使ってビジネスができる。

だから銀行がヘマをした時、あなたのゴールドは危険だ。

多くの人は、自分の口座にゴールドが入っていれば、それは自分のゴールドだと思うだろう。だが、本当に法的にそうなっているのかを確認することが必要である。

むしろ、実際にはあなたのゴールドは、金融機関の保有する資産として計上されていることが多い。そしてその金融機関があなたにゴールドを返す債務を追っているに過ぎない。

そして債務とは、債務不履行になる可能性のあるものである。つまり、金融機関がデフォルトすれば返ってくる保証はない。

EUとアメリカ

こうした法律は国によって異なるが、例えばEUやアメリカではどうだろうか。

ピーペンブルク氏は次のように続けている。

世界中の銀行はグレーな、あるいは隠された法的枠組みの中で運営されている。特に挙げられるのはBRRDと呼ばれるEUのベイルイン条項だろう。

ベイルインとは、金融機関が破綻したときに政府当局が金融機関を救済するベイルアウトとは違い、預金者などが預けていた資金によって金融機関を救済するやり方のことである。

そして、ピーペンブルク氏によれば、EUでは人々がゴールドを預けている口座によるベイルインが法的に可能だという。

ピーペンブルク氏は次のように続けている。

この条項によって、銀行が資金不足に陥った場合、規制当局は銀行の債権者や預金者にベイルインを強制できる。つまり、あなたの口座のゴールドは、銀行を立て直すための資金に使われる。

EUという肥大した官僚主義からは誰もが逃れたいだろう。EUに比べればソ連さえ赤面する。ソ連より酷い官僚主義だ。

アメリカではどうか。ピーペンブルク氏は次のように述べている。

アメリカでもそれほど変わらない。

銀行口座であれ証券口座であれ、金融機関が破綻したとき、あなたが自分のものだと思っていた資産は実際には第一にその金融機関の資産であり、二次的にあなたの資産であるに過ぎない。

これこそが、真剣なゴールドの投資家はこの脆弱な金融システムの外側にゴールドを保有すべき理由だ。

金融システム崩壊のリスク

こうしたベイルイン条項は、これまで先進国ではほとんど問題になってこなかった。ベイルインに対する有権者の反発が強いため、法的に可能であっても実際には行われず、紙幣印刷で作り出した資金によって政府が金融機関をベイルアウトすることが多かったからである。

だが、コロナ後の世界経済はインフレによって紙幣印刷をするとインフレが悪化する状況にあることを思い出す必要があるだろう。

もし紙幣印刷によるベイルアウトがインフレや国債下落を引き起こし、ベイルインと同じように有権者の反発を受ける政策になれば、これまでとは違って国内経済の中の少数人だけが犠牲になるベイルインがむしろ政治的に好まれることは十分有り得る。

だからピーペンブルク氏は次のように続けている。

富裕層向けのファミリーオフィスやファンドマネージャーなどの高度な資産運用家は、スイスやシンガポールやドバイなどの政治的に中立的な国の金庫にゴールドを移している。そこではゴールドの法的所有権は完全に金融システムの外にある。

国を選ぶことの重要性

一定数の日本人は日本円が紙切れであること、そしてこれからますます紙切れになることに気づいている。

だが、その中の一部の人は紙切れである円を捨てて別の紙切れであるドルやユーロを持とうとしているが、通貨の価値がどれも怪しいことに加えて、自分が資産を保有している国が法的に大丈夫なのかということを考えておく必要がある。

何故ならば、自国の紙幣から逃げ出そうとしている時点で、その人は金融システムがかなりまずいことになることを恐れているわけだが、ゴールドを買ったところで金融システムの内側に留まっていては、実際には全然逃げたことにはならないからである。

ピーペンブルク氏は次のように言っている。

ゴールドやシルバーを保有する理由は金融システムの破綻に備えることなのに、そのゴールドを金融システムの内側に保有してどうするのだ?

今回の記事における要点は、国と法律に関するリスクに注意しなければならないということだ。日本でも、1,000万円までの預金は保護されているということは、それ以外のものは保護されていないということだからである。

ピーペンブルクは次のように纏めている。

金融システムのリスクに注意することと同じくらい、国のリスクに注意することは重要だ。