フォン・グライアーツ氏: 金価格は中央銀行による買いで何倍にも上昇する

引き続き、Von Greyerzのエゴン・フォン・グライアーツ氏の、カイ・ホフマン氏によるインタビューである。

今回は、ゴールドと各国の中央銀行の関係について語っている部分を取り上げたい。

ゴールドを買っているのは誰か

金価格の上昇については、ここの読者には今更言うまでもないだろう。ここでは去年から金価格の推奨記事を書き続けているからである。

そして金価格は次のように上昇した。

ビットコインとも比べられることのあるゴールドだが、今年の値上がり率はビットコインを大幅に上回っている。

その理由の1つが、買い手の違いである。ビットコインは主に個人が買っているが、ゴールドは様々な国の中央銀行が外貨準備として購入している。

フォン・グライアーツ氏はゴールドの買い手について次のように述べている。

BRICS諸国は出来るだけのゴールドを買い集めようとしている。

BRICS諸国はドルが支配する国際金融システムから離脱しようとしている。それに対し、トランプ大統領はドルを使えと半ば脅しにかかっているのだが、恐らく逆効果だろう。

ゴールドを買っている中央銀行

さて、日本人であれば、中央銀行がゴールドを買っていると聞いて疑問に思ったことはないだろうか。日銀がゴールドを爆買いしているという話は聞いたことがない。

日本はむしろ、フォン・グライアーツ氏が価値の下落を予想しているドルと米国債を外貨準備として大量に保有しているのである。

そしてそれは日本だけではない。ゴールドを買っているのは主に東側の中央銀行(残念ながら日本は含まれない)であり、西側の中央銀行はほとんどゴールドを買い増してはいないのである。

何故か? フォン・グライアーツ氏は次のように言っている。

何故ならば、西側の中央銀行は状況を理解していないからだ。彼らはただ紙切れを印刷しているだけだ。

恐らくポーランドなど数国を除いて、西側の中央銀行はゴールドの保有量を増やしてはいない。彼らはゴールドを買う理由を理解していない。

東側の中央銀行がゴールドを買っている理由は、ドルを保有したくないからだ。だがアメリカに近ければ近いほど、ドルから逃げなければならないということが理解できない。

日本人は未だにアメリカの資産ならば大丈夫だと思いこんでいる。だからゴールドに逃げるという発想はない。金価格が上がっていると聞いたことはあるが、自分とは関係ないと思っている人が大半だろう。円からドルに逃げたところで、紙切れが紙切れになっただけなのにである。

西側と東側の金融戦争

考えてもらいたいのだが、これは金融市場を通した戦争である。そして片方の側には大量の紙幣が積み上がってゆき、もう片方には大量のゴールドが積み上がってゆく。

この状況はどちらが勝っているのか? アメリカは、第2次世界大戦直後の状態では世界の大半のゴールドを保有していたのである。それが覇権国家であるということである。しかしその後、ゴールドはアメリカから流出してしまった。

そのゴールドは何処へ行っているのか。フォン・グライアーツ氏は次のように述べている。

中国はゴールドを買っている。インドも買っている。東側諸国は皆そうだ。ロシアも買っている。

ゴールドの需要は膨大で、それに対応できるだけのゴールドの供給がない。だから需要を満たすためには価格が大幅に上昇するしかない。

それが、わたしが金価格が何倍にも上がることになると言い続けている理由だ。

この状態で有事になれば、紙幣はどの国のものも紙切れになるが、ゴールドはむしろ価値が上がる。兵器を買えるかどうかも結局は経済力であって、その意味でゴールドの保有量とはその国の覇権を表しているのである。

歴史上の覇権国家の興亡について解説したレイ・ダリオ氏の『世界秩序の変化に対処するための原則』でも、ゴールドの保有量は覇権国家の勢力を計る指標として使われている。そして実際に、アメリカ以前の覇権国家の繁栄と衰退は、ゴールドの保有量とやはり連動しているのである。


世界秩序の変化に対処するための原則