レイ・ダリオ氏: 1929年に米国株が暴落して世界恐慌を引き起こした理由

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が自身のブログで、1929年の世界恐慌を引き起こした米国株暴落を例に、株価バブルの生成と崩壊の過程を解説している。

米国株のバブル

ダリオ氏は米国株はバブルだと言っている。

だが、ダリオ氏によればまだ80%のバブルである。つまり、100%になるまでにはまだ距離があり、ここからバブルがどう100%に達して、それから崩壊するのかということが、他のヘッジファンドマネージャーの間でも話題になっているのである。

ダリオ氏に限らず、1929年の世界恐慌を引き起こした米国株暴落や2000年のドットコムバブルなど、過去の巨大バブルと状況が似ていると指摘している投資家は多いが、今回はダリオ氏が1929年の事例を解説しているので、それを紹介したい。

1929年世界恐慌

ダリオ氏は次のように言っている。

歴史を通してすべてのバブルとその崩壊は本質的には同じ理由で起きているが、ここでは1927年から1929年にかけてのバブル生成と、1929年から1933年までのバブル崩壊を例として取り上げたい。

バブルになるほどに株価を押し上げた買いの資金は何処から来て、そしてどうやってバブルになったのだろうか。

バブルの生成と崩壊を生み出すのは、大抵の場合信用、つまり借金の拡大と縮小である。

ダリオ氏は次のように説明している。

大体の場合そうだが、当時、人々は株式を買うためにお金を借りていた。それが将来返さなければならない負債を生み、返さなければければならない借金が株式によって生み出される富の量を上回った時、投資家は株式を売却して現金を作らなければならなくなり、株価の下落が始まる。そしてバブルは逆回転を始める。

ダリオ氏は、買い手が株式を買っていた状況についてより詳しく次のように述べている。

株式の買い手は借金で株式を買っていたので、その時は株式を買う資金を作るために他のものを売る必要はなかった。

買えば買うほど、株価は好調になり、人々はより株式に集まってきた。

「株式を買うために他のものを売る必要がない」ということがポイントである。普通、何かを買うためには何かを売らなければならない。そこには市場の競争原理が働く。取捨選択がなされ、良いものが生き残り、悪いものには資金が行かなくなる。

だが、株式が借金で買われるとき、経済全体でほかに犠牲となるものは生まれず、見かけ上株価だけが上がる状況が生じる。

しかしダリオ氏は次のように続ける。

だがそれをすればするほど、借金は増え金利は上がった。借り入れ需要が強く、また中央銀行は利上げをしていたからだ。

バブルの逆回転

金利が上がれば、借金をしている人はより大きな金利を払わなければ借金が維持できなくなる。これは、借金が増えれば増えるほど状況が悪化し、いつかの時点でバブルによる資産の増加よりも借金の利払いや返済の金額の方が大きくなってゆく。

その時点に達すれば、人々は「何か他のものを売らなければ株式を買えない」「株式を売らなければ借金を返せない」状況に追い込まれてゆく。

ダリオ氏は次のように述べている。

1929年から1933年の期間には、借金を返済するために株式などの資産が現金化されなければならなくなった。そしてバブルは逆回転した。

そうして人々が株式を売らなければならなくなれば、元々は株式の買いが株価を押し上げ、新たな買い手を惹きつけていた状況が、今度は株式の売りが価格を下げ、誰かが損失を補うために株式をまた売らなければならない循環へと変わってゆく。

ダリオ氏は次のように続けている。

株価は下落し、借金はデフォルトして借金の担保も無価値になった。人々はお金を貸したがらなくなり、バブルは自己強化的な暴落へと移行した。そして恐慌が起きた。

結論

これは1929年の事例だが、バブル崩壊は本質的にはいつもこれと同じことである。例えば2008年のリーマンショックでは、借金の理由が株式ではなく不動産だったが、その不動産バブルが結局は株式市場や経済全体を落とし込むバブル崩壊へと繋がった。

今は何のバブルだろうか。例えばAI産業は初期の設備投資の段階にあるが、その先行投資が返ってくるかどうかはまだ確定していない。そしてその巨額の設備投資のいくらかは借り入れで行われているが、それがAI関連銘柄の株価を押し上げているのである。

あるいは、今一番のバブルは、もしかしたら米国債かもしれない。

2000年のドットコムバブルにはインターネットという技術革新があり、1929年の米国株バブルには電気の普及という技術革新があった。

だから多くのヘッジファンドマネージャーがこれら過去の株価バブルに注目している。

1929年の世界恐慌と当時の米国株のバブル崩壊については、ダリオ氏が著書『巨大債務危機を理解する』でより詳しく解説している。そちらも参考にしてもらいたい。


巨大債務危機を理解する