レイ・ダリオ氏: 米国ハイテク株を買うならドルを空売りして為替リスクをヘッジせよ

引き続き、世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者レイ・ダリオ氏のMaster Investorによるインタビューである。

今回はアメリカのAI関連銘柄と為替ヘッジについて語っている部分を紹介したい。

アメリカのハイテク株

ダリオ氏の最近の注目は米国債とドルに行っている。アメリカの財政赤字の問題が米国債の将来的な下落を避けられないものにしていることがダリオ氏の懸念であり、株式市場については米国債の下落と金利上昇の結果下落するものという副次的な扱いである。

そこでインタビューではAI関連銘柄について聞かれている。ダリオ氏は次のように答えている。

AIと言えばすぐに思いつくような高成長株、特にマグニフィセントセブンのような銘柄については、こうした銘柄に対し楽観的な人々が計算する将来の利益の現在価値を採用して考えてもかなり割高になっていると思う。

直接名前を出してはいないが、ChatGPTを提供しているOpenAIに出資しているMicrosoftや、AIを提供しているGoogleの親会社Alphabet、そしてAIの情報処理に必要なGPUを製造しているNVIDIAなどを指していると思われる。

そしてダリオ氏は次のような銘柄を推奨している。

まだ市場が適切に織り込んでいないものとしては、AIを利用して利益が増加する会社だ。

例えばバイオテック株のようなものを見れば、それらは非常に割安で、しかも革命的な変革がそこにある。

主要AI銘柄は割高か

さて、主要なAI銘柄に対するダリオ氏の相場観は正しいだろうか。例えばAI銘柄筆頭のNVIDIAの株価は次のように推移している。

4月の株安から大きく回復している。4月の底値では株価収益率は16倍程度だったのが、今では30倍まで上がっている。

株式は安い時に買うものであって、確かに今では割安とは言えない。しかし筆者はNVIDIAなどの銘柄を特に割高と呼ぶダリオ氏の相場観とは意見を異にしている。

何故かと言えば、まず米国株全体がそもそも極めて割高だからである。これについては年末のデイヴィッド・ローゼンバーグ氏の記事を参考にしてもらいたい。株価回復で今の株価水準は当時とほぼ同じものになっている。

筆者の意見では、その中できっちりと純利益が成長しているNVIDIAはまだまともな方である。NVIDIAの利益成長率は36%であり、S&P 500の平均を大きく上回っている。

NVIDIAよりも割安なAI銘柄たち

しかし、筆者はもう当分NVIDIAには手を出していない。NVIDIAは去年まで筆者を大きく儲けさせてくれた銘柄だが、今でも成長率が36%あるNVIDIAとはいえ、筆者がNVIDIAを買っていた去年や一昨年の爆発的な成長率からはかなり減速してきている。

そこで筆者はGPU製造のNVIDIAから、AI向けデータセンターで使われる光トランシーバーを製造しているLumentumに乗り換えた。Lumentumの株価は次のように推移している。

筆者がこの銘柄を推奨したのは去年株価が50ドル近辺だった時である。

そして今年株価が再び下がった時にもかなり割安だとコメントしておいた。

その結果株価は上がり、株価収益率は24倍になったが、まだNVIDIAの30倍よりも割安で、利益成長率は113%とNVIDIAを大幅に上回っている。

これほどの成長銘柄が、4月の株安時には株価収益率が11倍程度だったというのはほとんど笑い話である。市場にはお金が落ちているものだ。拾う勇気があるかどうかだけである。

以下の記事で述べたように、筆者は今年の株安時に買い増した分を最近利益確定している。下がって上がるだけで儲かる相場である。

結論

ということで、筆者は主要AI銘柄が米国株全体よりも割高だとは思わないが、AI関連銘柄でもっと割安なものがあるというダリオ氏の意見には同意する。

ただ、買うとすれば4月に買うべきだっただろう。

また、ダリオ氏はNVIDIAなどを割高だと言った上で、次のようにも言っている。

わたしがバリュエーションについて言っていることがすべて間違っていて、そうした銘柄のパフォーマンスがこれからも良好だと考える人がいれば、それでもそうした銘柄を買う時にはドルを空売りして為替リスクをヘッジすべきだ。

ダリオ氏はそうした米国株個別銘柄をそれでも買いたい場合には為替ヘッジすべきだと言っている。

ダリオ氏のシナリオでは、米国債の下落とともにドルも下落し、株価はそれにともなって下落することになるので、ドルを空売りしておけば株価下落のダメージを抑えられるという計算である。

ダリオ氏は米国株について語る時でさえもドルの下落シナリオを気にしている。

ダリオ氏の新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)では、基軸通貨ドルの長期的な下落が1つの大きなテーマとなっている。英語版しか出ていないが、英語が読める人は原著で読むことをお薦めしたい。


How Countries Go Broke