世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が、Master Investorのインタビューで、米国の債務問題と金融市場への影響について語っている。
インフレと債務問題
2025年、アメリカの財政赤字の議論が過熱している。
これまでは政府債務はどれだけ増えても問題ないということがまことしやかに言われてきた。だがコロナ後のインフレと金利上昇で、今や大量の米国債には多額の利払いが発生しており、利払いは米国債の新規発行で賄われるので、このままでは米国債が指数関数的に増加してゆく。
インフレにならない限り問題ないと言われていたインフレ政策が問題になってしまったのは何故か。インフレ政策でインフレになったからである。
この状況は、金融の歴史を研究しているダリオ氏にとっては当たり前結果である。
ダリオ氏は次のように述べている。
アメリカの債務問題は、ポンドが基軸通貨だった時の大英帝国や、その前のオランダ海上帝国の債務問題と同じだ。
ダリオ氏は著書『世界秩序の変化に対処するための原則』で、アメリカ以前に覇権国家だった大英帝国やオランダ海上帝国が、インフレと金利上昇と債務過多によって衰退していったことを丁寧に解説している。
だが現代においても人々はインフレ政策から逃れられず、インフレを引き起こして米国債の利払いが問題となってしまった。
米国債の大量発行
さて、この米国債の問題は具体的にどれくらい逼迫しているのか。
ダリオ氏は次のように解説している。
来年のことを考えれば、米国政府が売らなければならない米国債の量はおよそ12兆ドルになる。
1兆ドルは国債の利払いから、2兆ドルは新たな借金、9兆ドルは満期になる国債の借り換えから来る。
それは12兆ドル分の米国債の買い手を見つけなければならないことを意味する。
世界経済の規模感を把握している読者ならば、これがどういう状況か分かっただろう。
アメリカの政府債務は合計で36兆ドルなので、12兆ドルと言えば米国債全体の33%が買い手を見つけなければならない計算になる。
もちろん借り換えの分は、満期になった分の米国債をもとの買い手がまた買い直すことも有り得るだろうが、それを考慮してもかなりの量である。
買い手不足で米国債下落
もし米国債がこの大量の買い手を見つけられなければ、需要と供給の関係から米国債の価格は下落せざるを得ない。
ダリオ氏は次のように述べている。
国債の需要と供給が危機的状況に達すると、国債が売られ始める。
そうなれば、金利は上がり、通貨は下がり、株価もその状況では下落することになる。
興味深いのは、米国債が下落すれば株価も下落すると言っている部分である。
結論
実際、米国債が大きく下落した場面は直近100年ほどの歴史のなかで2回存在する。
1回は1970年代の物価高騰時代、もう1回は1929年から始まる世界恐慌の例である。
そしてその両方のケースにおいて米国株は大きく下落している。
だからダリオ氏は今回も米国債が下落すれば米国株は同じようになると予想しているのである。
世界恐慌の例についてはダリオ氏が『巨大債務危機を理解する』で詳しく解説しているので、未読の人は是非頭に入れておいてほしい。これからの米国市場を理解する上で必須の知識だからである。