引き続き、アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏と、その友人で共和党の政治家であるフィル・グラム氏の対談である。
今回はグラム氏がアメリカの債務問題について語っている部分を紹介したい。
アメリカの債務問題
2025年、金融市場の関心はアメリカの政府債務にある。コロナ後の莫大な現金給付もあり、政府債務はGDPの115%にまで膨らんだ。そして現金給付が生んだインフレによる金利上昇で、米国債の利払いは今や財政赤字の半分にまで達している。
だが、そもそもアメリカの債務はコロナ前からかなりの金額となっていた。1980年代のレーガノミクスの時代から、財政赤字と貿易赤字の双子の赤字という、今まさにトランプ政権が取り上げている問題が懸念されていたのである。
だがそれから数十年が過ぎた。アメリカはまだ破綻していない。
だからグラム氏は次のように言っている。
もし、レーガン政権時代だった1981年にアメリカの政府債務をGDPの115%まで増やすことが出来るかと聞かれれば、何らかの経済ショックなしにそこまで行くことは不可能だとわたしは考えただろう。
だから転換点がいつになるかは分からない。だが、ある時点で投資家たちは政府に借金を返済する能力があるかどうか、そして政府に返済する気があるかどうかを疑い始めるだろう。
先進国が破綻するタイミング
アメリカも、そして日本もまだ破綻していない。だが、覇権国家アメリカを含む先進国は紙幣印刷では破綻しないという、コロナ前までまことしやかに囁かれていた話は、今ではもはや誰も信じていない。
何故ならば、インフレで金利が上がったことにより、今実際に米国債の利払い費用が財政赤字を圧迫し、米国政府の財政に影響を及ぼしているからである。
そして先進国も破綻する。それは歴史的事実である。Bridgewaterのレイ・ダリオ氏は『世界秩序の変化に対処するための原則』のなかで、アメリカの以前に覇権国家だった大英帝国やオランダ海上帝国が、債務過多とインフレで衰退していったことを詳しく解説している。
だから、アメリカだけがそれから逃れられると考える方が非論理的なのである。
破綻のタイミング
だが、それはいつなのか。グラム氏の言う「転換点」とはいつのことか。グラム氏は次のように説明している。
政府は、借金を完済できなくても破綻しない。だが、利払いが払えない時に破綻する。
金利がゼロだったならば、国債の買い手がいる限り、政府はいつまでも借金を借り続けることができる。国債に満期が来ても、通常国債の保有者は満期が来た国債の代わりに新たな国債を買ってくれるだろう。
国債の総量と買い手の数に変化がなければ、その均衡状態は永遠に続く。実際には国債の総量は増えてきたが、それは政府が自分の意思で増やしてきたのであり、もし買い手が足りずに売れないようなことがあれば、政府は単に国債を発行せず現状を維持することを選ぶことができただろう。
だが、この均衡状態が政府のコントロール下を離れる瞬間がある。インフレが発生し、金利が上昇した時である。
金利が上昇すると、国債の総量は毎年利払いの量だけ強制的に増えることになる。利払いは新たな国債発行で賄わなければならないからである。
そうなると、政府が意図しようがしまいが、買い手が十分な数いようがいまいが、無慈悲にも米国債は毎年指数関数的に増えてゆくことになる。
そうして政府債務は政府のコントロールを離れてゆく。そのきっかけとなる事件は、インフレと金利上昇である。
結論
だから債務は既に崖を転がり始めている。それが加速して何かにぶつかるのがいつかということは現状では厳密には予想できない。
だが、指数関数というのは、数学を少しでも知っている人であれば分かることだが、かなり急激に上昇してゆく関数である。だから遅くとも5年から10年の間に何かが起こることはほぼ避けられないだろう。
グラム氏は、しかし、アメリカの将来を悲観していない。グラム氏は次のように言っている。
だが、わたしはアメリカの危機に対処する能力を信じている。1981年にも経済危機があったが、アメリカはそれに対処した。
だからアメリカ売りはお薦めしない。
危機は来るというのがわたしの予想だ。そしてアメリカは厳しい判断に迫られる。そしてアメリカは、厳しい判断を下すだろう。
1980年代には、アメリカはポール・ボルカー議長による無慈悲なインフレ退治を政治的に容認した。
アメリカはまた同じことをやって、ダリオ氏が『世界秩序の変化に対処するための原則』で述べているようなこれまでの覇権国家の運命から逃れる特例となることができるのだろうか。楽しみに待ちたいものである。
