グリフィン氏: 米国の財政破綻懸念でゴールドとビットコインが高騰している

引き続き、Citadel創業者のケン・グリフィン氏のBloombergによるインタビューである。

今回はアメリカの債務問題と金相場や暗号通貨について語っている部分を紹介したい。

アメリカのインフレ動向

前回の記事でグリフィン氏は、アメリカのインフレ再加速の可能性が過小評価されていると指摘していた。

アメリカのインフレ率が、まだぎりぎり2%台とはいえどんどん上がってきている中で、Fed(連邦準備制度)は利下げを開始しているからである。

グリフィン氏はこの利下げ開始について次のように言っている。

Fedは労働市場の弱まりを気遣うことと、インフレを抑えることの間で迷っている。だが来年の前半にインフレが再加速すれば、今の決断はまずい結果をもたらす可能性がある。

利下げを決断したパウエル議長は、インフレ率と同時に失業率も上がっていることを懸念して利下げを決めた。だが、グリフィン氏はその決断がアメリカのインフレにとってまずい結果になる可能性を指摘しているのである。

パウエル氏も、そうなるとまずいことは理解しているのだが。

インフレとドル安

グリフィン氏はアメリカのインフレについて次のように分析している。

インフレは目標よりも大きく高い。そして来年のあらゆるインフレ予想もそうなっている。

そしてそれは、今年の前半にドルがおよそ10%も下落した1つの理由だ。それは半年のドルの下げ幅としては過去50年で最大だ。

日本人はあまり理解していないかもしれないが、今年のトレンドの1つはドル安である。他の通貨に対するドルの強さを示すドル指数のチャートは次のようになっている。

ドルは下がっている。何故日本人がそれをあまり理解していないかと言えば、ドル以上に日本円が下がっている結果、ドル円は下がるどころかむしろ上がっているからである。

しかしそれが、価値が下がってゆく通貨同士の虚しい争いであることは言うまでもないことだろう。

ドルからの資金逃避

さて、しかし日本円が下がることとドルが下がることとの間には大きな差が存在する。世界経済に及ぼす影響である。

ドルは基軸通貨であり、各国の準備通貨として採用されている。また、国家でなくともドルで預金している人は世界中に居るだろう。

しかしトランプ政権はドルの価値を犠牲に金融緩和をしようとしている。

そしてその理由は、コロナ後の金利上昇で今やアメリカの財政赤字の半分を占めている米国債の利払いを金利低下で抑えるためである。

つまり、アメリカは財政問題の解決のためにドルの価値を犠牲にしようとしており、それをドルの保有者が察知すればどうなるか。

グリフィン氏は次のように述べている。

金価格は史上最高値だ。そして暗号通貨のようなドルの代わりになる他の資産の値上がりは途方もない。

人々はドルのリスクや米国政府の破綻リスクからポートフォリオを守るための効果的な方法を探している。それでこうした資産の価格が上がっている。

アメリカは財政破綻するのか

グリフィン氏が「米国政府の破綻」という言葉を使ったことに、インタビューの司会者はショックを受けたようだ。

本当にそんな懸念があるのかと司会者は聞いて、グリフィン氏は「何を言っているんだ」という驚いた顔をしながら次のように言っている。

ゴールドの価格を見れば明らかだろう?

金価格は次のように推移している。

ゴールドは実際に、自国の外貨準備をドルから逃がそうとしている様々な国の中央銀行によって買われ、既に金利などのファンダメンタルズだけでは説明不能な水準まで上がっている。

グリフィン氏からすれば、他にどういう理由があるのかという気持ちなのだろう。

結論

ゴールドがドルに取って代わろうとしている。だが、ドルのように世界中の国々の外貨準備になるために十分な量のゴールドは世の中には存在しない。

金価格上昇でかなり大きくなった金相場だが、それでもせいぜいNVIDIA1社の時価総額の7倍以下の規模でしかない。だから、世界中で少量のゴールドの取り合いになって、金価格が理論値を超えて高騰しているのである。

金価格の推移見通しについては、以下の記事を参考にしてもらいたい。

グリフィン氏は次のように言っている。

今やゴールドは安全資産だと見なされている。かつてはドルがそうだったのにだ。

わたしはその現象を非常に憂慮している。

世界におけるドルの立場というものが、明らかに変わろうとしている。

だが、基軸通貨の変化が100年ほどのスパンで起きるというのが、世界の歴史上何度も起こってきたことなのである。

大英帝国のポンドも、その前のオランダ海上帝国のギルダーも、同じ経験をしてきた。基軸通貨と覇権国家の歴史については、レイ・ダリオ氏が著書『世界秩序の変化に対処するための原則』で詳しく解説しているので、そちらを参考にしてもらいたい。


世界秩序の変化に対処するための原則