引き続き、シンガポールの国家ファンドであるGICを運用していたファンドマネージャーである黄国松氏とBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏の、Future China Global Forum 2025における対談を紹介したい。
ドルの先行き
シンガポールの国家財産を運用していた黄氏は、ドルの先行きを心配している。実際、黄氏がドルの先行きを心配し始めたのは、アメリカで金本位制が廃止された1970年代のことである。
黄氏は当時、それでシンガポールの外貨準備だったドルをゴールドに持ち替えた。そしてそれ以来、ドルの価値はその時から50年以上下がり続けている。黄氏はこれまでの記事で次のように言っていた。
それで、シンガポールは外貨準備のドルの一部を当時35ドルだったゴールドに替えることが出来た国になったのだ。
そして今、金価格は3,600ドルになっている。これは重要な教訓だ。
そのゴールドはシンガポール航空の飛行機を傾けることになったのだが、それはまた別の話である。
トランプ政権の金融緩和
そして今またトランプ政権が金融緩和によってドル紙幣の価値を薄めようとしている。
トランプ大統領は何故金利を下げたいのか? コロナ後の金利上昇で米国債の利払いが急増し、アメリカの財政赤字の半分にも達しているからである。
米国債の利払いは防衛費も圧迫している。だからアメリカの債務問題はアメリカの覇権の問題なのである。
だからトランプ政権は金利を下げたい。そのためには、恐らくは多少インフレになっても気にしないのではないかということが懸念されている。
米国債の供給問題
さて、米国政府は米国債の利払い急増のお陰で大量に米国債を発行しなければならない状況に置かれている。それで米国債に買い手は足りるのかという話になっている。
だから米国政府はできるだけ米国債の発行量を抑えたい。だが、債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏の指摘通り、米国債のほとんどは短期債で、すぐに満期が来て新たに国債を発行しなければならなくなる。
米国政府はかなり詰んでいる。だからトランプ政権は必死なのである。
さて、ここでトランプ政権はどうするか? アメリカには自分の言うことを聞いてくれる便利な国がいるではないか。黄氏は次のように言っている。
例えば、トランプ政権がアジアや中東の債権国との話し合いの中でこう言うかもしれない。
「あなたがたは数兆ドル分の米国債を保有していて、返済期限までは平均で数年だ。アメリカはあなたたちに防衛力の傘を与えているのだから、その期限を30年後や50年後に延長するのはどうか?」
これは、大英帝国がその末期に自分の植民地にやったことに似ている。植民地は最後まで搾取されたのであり、しかし逃げられる国から先に大英帝国から逃げて行ったのである。シンガポールもその1国だった。
結論
さあ、様々なリスクを考えなければならない時代になってきた。
これは日本とアメリカという国同士だけの問題ではない。個人でもドルを保有している人は、ドル預金を預かっている銀行はそのドルで米国債を買っているのだから、その人は実質的に米国債を保有しているのである。
そもそもアメリカの財政が本当に困った時には、ドル建ての資産は換金できなくなるという予想もある。
アメリカのような覇権国家が、インフレと金利上昇で財政的に困窮する時にはあらゆることが起こる。
サバイバルの時代である。黄氏と対談しているレイ・ダリオ氏は、そういう状況下でどういうことが起こるのかについて、新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)で詳しく説明している。日本語版はないが、英語が読める人はそちらも参考にしてもらいたい。