トランプ大統領、パウエル議長に3%の利下げを要求、ドル下落を後押し

アメリカのドナルド・トランプ大統領が、来年5月に任期満了を迎えるFed(連邦準備制度)のジェローム・パウエル議長への批判を強めている。

パウエル議長の利下げ停止

コロナ後のインフレによる大幅な利上げの後、インフレが落ち着いたためパウエル議長は1%の利下げを行ない、金利を4.25%に下げたが、その後半年ほど金利をその水準に維持し続けている。

アメリカの政策金利は次のようになっている。

アメリカのインフレ率の方は2%台まで下落しているので、トランプ大統領はパウエル議長は利下げすべきだと繰り返し批判しているのである。

トランプ大統領のパウエル議長批判

トランプ大統領は今月のテキサスでのインタビューで次のように言っている。

パウエル議長は酷い仕事をやっている。金利は今より3%低い水準であるべきだ。パウエル議長のせいでアメリカは多額の費用を支払っている。

アメリカはナンバーワンでなければならないのに、彼のお陰でそうなっていない。

「多額の費用を払っている」というのは、今や財政赤字の半分を占めるほどに増加した米国債の利払いのことだろう。

コロナ後のインフレで金利が1%から4%に増加したので、当然ながら莫大な政府債務の利払いもそれだけ増加したのである。

また、トランプ大統領は住宅ローンの金利にも言及してパウエル氏に対して次のように言っている。

人々は住宅を購入することができない。この男が馬鹿だからだ。

トランプ氏はパウエル氏が利下げしないのは政治的理由ではないかと疑っているらしい。トランプ氏は次のように言っている。

パウエル氏は金利を高過ぎる水準に保っている。恐らく政治的理由だろう。

彼が利下げを行なったのは、わたしの記憶では大統領選挙の前だけだ。カマラか誰かを助けたかったのだろう。

カマラというのは、バイデン前大統領の後継者として出馬しトランプ氏に敗北したカマラ・ハリス氏である。

ちなみにだが、パウエル議長は共和党支持者であり、しかもプライベート・エクイティ・ファンド出身でマクロ経済学の知識が乏しかったパウエル氏を、共和党員だからというだけの理由でFedの議長に指名したのは、第1次トランプ政権におけるトランプ氏なのである。

だがトランプ氏がそう言いたくなる理由も分からなくはない。パウエル氏はバイデン政権だった2021年、明らかにインフレ率が高騰していたにもかかわらず、「インフレは一時的」と無根拠に言い張ってゼロ金利政策を長引かせた。

そしてトランプ氏が前に大統領だった時はどうだったかと言えば、金融引き締めは株価とは関係ないと無根拠に言い張って金融引き締めを強行し、株価を急落させた2018年の世界同時株安が思い出される。

特に上の方の記事におけるトランプ氏の恨み言を思い出してほしい。トランプ氏とパウエル氏の因縁はこの時からなのである。

トランプ氏は次のように皮肉を言っている。

中央銀行は何もやらない。素晴らしい仕事ではないか。1日か半日だけ会見を開いて「経済は上手く行っている」とか「上手く行っていない」とか言い、そして金利を上げる。そしてその判断は間違っている。

トランプ大統領の金融政策

トランプ氏の批判が正しいにせよ間違っているにせよ、パウエル議長の金利に関する今年の判断が正しいにせよ間違っているにせよ、投資家にとって重要なのはパウエル議長の任期が来年5月で終了すること、そして新たな議長を指名することが出来るのはトランプ氏だということである。

ではトランプ氏はどのような新議長を任命するのか。その新議長は金利を上げるのか下げるのか?

Bridgewaterのレイ・ダリオ氏は、トランプ政権がアメリカ版アベノミクスで金利を人為的に抑え、ドルを暴落させると予想している。

果たしてそうなるのだろうか。それはもはや明らかではないのか? トランプ氏ははっきりと次のように言っている。

金利は1%であるべきだ。そうすればアメリカは世界一になれる。だが現状ではアメリカは4%の金利を支払っている。

ペンを1回動かすだけで1兆円が節約できるのに。

ダリオ氏はまさにアメリカの債務問題でドルが犠牲になるということを説明するために書いた新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)において、日本の円暴落の事例を先進国が最終的に行き着くシナリオとして解説している。

ダリオ氏の新著には日本やアメリカがこれからどうなるかが事前に説明されている。英語版しか出ていないが、英語が読める人は原著で読んでおくべきである。


How Countries Go Broke