レイ・ダリオ氏: 富裕層への増税で富裕層を国から追い出せば政府の財政は破綻する

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏がデイヴィッド・ルービンスタイン氏によるインタビューで、アメリカの経済格差と債務問題について語っている。

アメリカの債務問題

コロナ後の金利上昇で米国債の利払いがアメリカの財政赤字の半分を占めるようになり、アメリカの債務問題が話題となる中、ダリオ氏はアメリカの債務問題をアメリカ凋落の兆候であると見なしている。

ダリオ氏が著書『世界秩序の変化に対処するための原則』で行なった歴史研究によれば、大国の衰退が始まるのは債務を増加させる緩和政策でついにインフレが起こった瞬間であり、そこから金利が上がって先進国の政府でも破綻するのだという。

だが『世界秩序の変化に対処するための原則』によれば、先進国が衰退する前兆は他にもあるという。例えば経済格差の拡大である。

国家の破綻と経済格差

ダリオ氏の歴史研究によれば、大国の破綻前夜には債務やインフレの問題とともに、国民の経済格差が広がっていることが多いという。

そして今のアメリカはその条件に当てはまっている。ダリオ氏は次のように述べている。

アメリカには収入と資産と生産性に大きな格差がある。アメリカ人の60%は読み書きのレベルが小学6年生以下だ。

だから生産性とそこから生み出される収入が社会的な問題となる。

ここでは世界屈指の資産家である多くのヘッジファンドマネージャーの意見を紹介しているが、中流階級に対する見解がそれぞれ違っているところが面白い。

例えば以下の記事で紹介したCitadelのケン・グリフィン氏の見解はまさにアメリカのエリート層そのもので、彼がアメリカの中流階級をまったく理解していないことを示していたが、ダリオ氏の見解はデータに基づいた客観的なものである。

ただ、公平性のために言えば、国家の末期にインフレと経済格差が同時に起こることが多いのは、個人的な意見では単に能力格差だけの問題ではなく、インフレ政策が両方を引き起こすからである。

例えば量的緩和政策は実体経済に恩恵を与えるよりも多くの恩恵を株価に与えた。それは、株式を持っている資産家たちを無条件で優遇する措置であり、明らかに今日の経済格差の直接の原因となっている。

株式を運用しているダリオ氏もその恩恵を受けた1人である。

だがそれはダリオ氏のせいではない。ダリオ氏を含め、多くのヘッジファンドマネージャーたちは、インフレを引き起こすとしてインフレ政策に反対していたのである。

だが量的緩和政策や現金給付はむしろそこからダメージを受ける中流階級の人に支持された。日本人の中でアベノミクスを支持した人で、インフレに困っている人は、鏡を見るべきである。利益を受けたのは富裕層だが、それは富裕層のせいではない。あなたがたのせいである。

富裕層と国家の財政

さて、ここで重要なのは、自分で富裕層に与えてしまったものはもう戻らないということである。

財政問題が悪化すれば、お金を持っている富裕層から税金を取ろうとする政党が必ず現れてくるだろう。

そもそも富裕層が中流階級よりも多くの税金を支払うべきだという倫理的根拠は何もないのだが、富裕層は既にかなりの税率を押し付けられている。

現状の税率でさえ理不尽であるのに、他人が支持したインフレ政策のせいで政府の財政が悪化したから更に金を払えと言われたならば、富裕層はどう考えるだろうか。

彼らの多くは、別に自国にこだわらなくとも別の国でも生きていける人々である。だから海外移住を考える人も多いだろう。そうすれば自国の税金を払わずに済む。

そうした富裕層に対して、「出ていきたいなら出ていくがいい」と考える人々も多いだろう。だが量的緩和を支持した時と同じように、こうした人々の考えは常に財政問題を悪化させる。

ダリオ氏は次のように述べている。

アメリカではトップ10%の人々がアメリカの税金の76%を支払っている。もちろん相応の収入があるということだが。

だから彼らを追い出せば、つまり例えばトップ10%の半分が出ていって5%に減少すれば、税金の35%を失うことになり問題が生じる。

これは単純に計算上の事実だ。

結論

先進国にもはやそんな余裕はない。財政悪化で国債市場は満身創痍である。

アメリカでは4月の株安時に米国債が突如急落を始める出来事があり、日本では国債の下落がもう2年以上止まっていない。

多くの人々の選ぶ選択肢は、常に状況を悪化させ続ける。

だがそれも、ダリオ氏の『世界秩序の変化に対処するための原則』がすべて事前に予想していることである。

人々はインフレ政策を好み、当然の結果としてインフレをもたらし、金利上昇で政府の財政が悪化して、富裕層からお金をむしり取ろうとするがそれも更に状況を悪化させる。

ダリオ氏の著書によれば次に起きることは資本統制や資産没収だそうである。詳しくはダリオ氏の本を読んでもらいたい。賢明な人は身を守るべきである。


世界秩序の変化に対処するための原則