アメリカの元財務長官でマクロ経済学者のラリー・サマーズ氏が、PBSのインタビューでアメリカの貿易赤字の問題と、トランプ政権の関税政策について語っている。
アメリカの製造業
トランプ大統領はアメリカに製造業を取り戻さなければならないと主張している。中国や東南アジア諸国に取られた工場の仕事をアメリカに取り戻すため、iPhoneなどもアメリカで製造したいらしい。
関税政策もその一環である。トランプ氏は関税をかけ、外国製品の流入を抑えることで、アメリカ製の製品が売れやすくしたいということである。
サマーズ氏は、アメリカの製造業の現状について次のように述べている。
アメリカの製造業のために何かをしなければならないことは確かだ。
関税は有効か
しかしサマーズ氏は関税には反対している。サマーズ氏は次のように言っている。
だが関税がそのための正しい道筋だと思うか? ほとんど無条件でノーだ。非常に多くの場合、関税は逆効果になる。
サマーズ氏は何故そのように考えるのか。例えば鉄鋼に対する関税を例に次のように言っている。
鉄鋼を使う製造業で働いている人は、鉄鋼業で働いている人の60倍いる。だから鉄鋼に関税をかけることは、関税によって守られる雇用よりも多くの失業を産む。材料費が高騰するからだ。
鉄鋼に対する関税は、アメリカ国内で鉄鋼を売る人を守る一方で、鉄鋼を買ってものを作る産業では原材料費がかさみ、商品が高額になり、他国の製品との競争力を失えば雇用も減少するだろう。
更にサマーズ氏は、トランプ大統領が銅に対してかけた50%の関税についても次のように述べている。
データセンターにしても電気自動車にしても、あらゆる産業で電気が使われている。そうした業界では電力を移動させることが重要だ。そしてそれを媒介するのは銅だ。
それで守れる銅採掘の雇用が何であれ、製造業全体に与えるダメージの方が大きい。
世界のブロック化とインフレ
サマーズ氏は次のように纏めている。
常識的に考えて、トランプ政権の関税政策は、物価高騰という形でアメリカの消費者に帰ってくる。
これは酷い戦略だ。しかもそれに加えて相手国の報復がこれから来ることになる。
この話は、世界経済のブロック化と関係している。西側と東側の関係が悪化し、各国が輸入せずに自分のところで商品を作ろうとする。
そしてそれは、世界の中で安く作れる国が商品を作っていた時代よりもものの値段が上がることを意味する。
結論
コロナ後、ウクライナ戦争やパレスチナ情勢のように世界の各地で戦争が起こっているが、これを予想していた人物がいる。Bridgewaterのレイ・ダリオ氏である。
ダリオ氏は2021年に出版した『世界秩序の変化に対処するための原則』で、アメリカの覇権がインフレと債務問題で弱まり、その結果、これまでアメリカの振る舞いに我慢していた他の国々がアメリカ寄りの勢力に対して反旗を翻すと予想している。
そしてその直後、2022年にウクライナ戦争、今年にはイランとイスラエルの紛争が起こっている。
こうした状況下で強い国は、金属やエネルギー資源などの原材料を持っている国である。iPhoneを持っていなくても自国でスマホは作れるが、金属なしではiPhoneは作れない。
そして原材料を持っているのは、アメリカではなく中国やロシア、中東諸国、アフリカ諸国であり、その大半は欧米に対して批判的である。
だからジョニー・ヘイコック氏は次のように言っていた。
すべての中央銀行が現在ゴールドを外貨準備として増やしているわけではない。増やしているのは東側諸国の中央銀行だ。
中国、ロシア、インド、ブラジル、トルコ、これらは一部で、西側の国もある。だがゴールドを買っている中央銀行の多数派は東側の中央銀行だ。それは西側から東側への権力の移行なのだ。
これまでは金融資産を持っている国が金持ちだった。これからは現物資産を持っている国や人が金持ちとみなされるだろう。
すべてはダリオ氏の『世界秩序の変化に対処するための原則』で予想されているシナリオ通りに進行している。トランプ大統領でさえ、その枠組みの一部に過ぎないのである。