引き続き、世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏の、デイヴィッド・ルービンスタイン氏によるインタビューである。
今回はダリオ氏が一般の人々への投資のアドバイスを語っている部分を紹介したい。
中央銀行による国債の買い支え
ダリオ氏はこれまでの記事で、アメリカの財政赤字がまともな方法で解決される可能性は5%だと予想していた。
ダリオ氏はワシントンで与野党の政治家と対談した後、そう結論したらしい。
そして赤字が垂れ流される限り際限なく発行されてゆく米国債は、最終的に中央銀行が買い入れるしかないと主張していた。
紙幣を大量に印刷すれば、紙幣の価値がなくなる。2022年に金利を抑えるために日銀が無制限に日本国債を買い入れなければならなくなった瞬間からドル円がどうなったかを見ればそれは明らかである。

ダリオ氏によれば、同じことが今度はドルに起きようとしている。
紙幣の価値がなくなる時の投資法
中央銀行による紙幣印刷によって紙幣の価値がなくなる時には、投資家はどうすれば良いのか。
ダリオ氏は次のように語っている。
まず自分のポートフォリオの価値をインフレを差し引いて考えることだ。数字をそのまま受け取ってはいけない。
だが、ここの読者はともかく、一般の人々にはそれさえも難しすぎるかもしれない。銀行口座に100万円入っていて、その数字が変わらなければ、自分の資産の価値は変わっていないと考える人が大半だろう。
しかし預金の金額が変わっていなくても、物価は変わる。だが重要なのは、物価上昇とは必ずしもものの価値が上がったわけではなく、紙幣の価値が下がったのだということだ。
紙幣の価値が下がったので、同じ金額ではものが買えなくなる。それがインフレである。
アダム・スミス氏が『国富論』で分かりやすく説明しているような、古典的な議論である。通貨にも価値があって、それが上下するのである。
インフレヘッジ資産
では、こういう時には人々は何を買えば良いのか。ダリオ氏は次のように述べている。
今手に入る一番安全な投資は、インフレ連動国債だ。
何があっても、インフレ率に2%強を加えた実質リターンが手に入る。
インフレ連動国債とは、インフレになって紙幣の価値が減っても、その分を上乗せした上で金利を支払ってくれる国債のことである。
アメリカの10年物インフレ連動国債の金利は、今2%となっている。
これはつまり、インフレ連動国債を持っていれば今後10年、インフレを回避した上で更に2%の金利が手に入るということを意味している。
投資のことが何も分からない一般の人々にとっては、これほど分かりやすい投資もないだろう。ダリオ氏がインフレ連動国債を薦めるのは、実はダリオ氏こそがラリー・サマーズ氏に頼まれてアメリカのインフレ連動国債を設計した張本人だからでもある。
インフレヘッジを分散する
ダリオ氏曰く、それが一番人に薦めやすい一番安全なインフレヘッジだと言う。そこからダリオ氏は次のように続けてゆく。
安全な投資から紹介したが、そこから投資を分散させることを考えてゆく。
ダリオ氏がインフレ連動国債の次に薦める資産はゴールドである。ダリオ氏は次のように述べている。
ゴールドを一種の通貨だと考えるべきだ。
中央銀行も分散のためにゴールドを買っている。
ゴールドを通貨として考えるというのは、上記の文脈で言えば物価や資産価格を紙幣で計るのではなく、ゴールドと比べてみるべきだということである。
ダリオ氏は次のように続けている。
ゴールドは元々世界中で通貨として使われていた。
今では不換紙幣に慣れているので、ものの価値を紙幣を基準に計る。ゴールドのことも同じように見る。
例えば、S&P 500はドルで計算すれば上がっているが、ゴールドで計算すればむしろ下がっている。
インフレの時代にはいつもそうである。1970年代には、米国株の価値はゴールドに比べると25分の1まで下落した。
だから紙幣の価値が下がっていて、その代わりにゴールドを買うというのが、各国の中央銀行の間でも流行りなのである。何処の中央銀行が買っているかは、ジョニー・ヘイコック氏の記事を参考にしてもらいたい。
結論
ゴールドやインフレ連動国債は、アメリカの財政赤字が解決しないシナリオのための投資資産である。結局米国債を中央銀行が紙幣印刷で買い入れなければならなくなれば、そうした投資が功を奏するだろう。
一方で、ダリオ氏は分散投資を推奨することで有名である。
だからダリオ氏は次のように言っている。
また、ゴールドは他の資産の多くと逆相関になっている。相場が急落して他の資産が下がる時にゴールドは上がる。
だからインフレ連動国債とゴールドに投資すれば、ポートフォリオ内の他の資産に対して分散投資ができる。
ゴールドとインフレ連動国債にもそれぞれ長所と短所がある。インフレになればゴールドの方が大きく上がるだろうが、仮にインフレにならなくてもインフレ連動国債なら物価を上回る金利は少なくとも保証されている。
アメリカがデフォルトしなければの話だが、ダリオ氏はデフォルトになるくらいならば政府は紙幣印刷で紙幣を無価値にすると考えているのだろう。
また、日本人にはドル建てのインフレ連動国債は為替リスクもあるだろう。アメリカのインフレとドル安が同じ規模になるとは限らないので、計算が必要である。
いずれにせよ、紙幣の価値が不変であるような幻想から離脱して資産を考えるべき時が来ている。インフレと通貨安を両方考えなければならないのも一般の人には難しいところである。
アダム・スミス氏は『国富論』で、金貨と銀貨の関係を例に出して説明してくれている。こういう基本的な本からまず学ぶことである。

国富論