1970年代の物価高騰時代における貴金属や農作物の価格推移

世間でインフレが話題になるなか、ゴールドやシルバー、とうもろこしや小麦などの金融市場で取引されるコモディティ銘柄がインフレ回避のために買われ、金融引き締めが行われるたびに下落してゆく。

だがインフレが長期化するならば、コモディティ相場の上昇は長期トレンドである。その時に各銘柄はどのように動くのか。どの銘柄を買えば良いのか。

インフレという長期トレンド

アメリカで過去に物価高騰が起きたのは1970年代であり、その時もインフレは1度だけ来たわけではなかった。インフレは3度の波となって世界経済を襲った。以下は当時のアメリカのインフレ率および政策金利のチャートである。

中央銀行が緩和をすればインフレになり、引き締めをすれば経済がクラッシュするということを繰り返し、インフレ率は長期的には高騰していったのである。

だからゴールドなどの価格も常に一直線で上がり続けたわけではない。それは今と同じである。

だがインフレが本当の意味で打倒されるまで、1980年にFed(連邦準備制度)のボルカー議長がやったように、不況になって通りが失業者で溢れるようになっても高金利を断行しインフレを本当に殺してしまうまでは、コモディティの長期上昇トレンドは変わらないはずである。

1970年代のコモディティ相場

逆に言えば、一時的にインフレが弱まってはいるが、そのときに中央銀行が気を緩めて緩和を行うならば、その時はコモディティ銘柄を買うチャンスだということである。

だがどの銘柄を買うべきかという問題はある。インフレ回避と言えばゴールドだが、インフレとは紙幣は溢れているがものは足りないという状況である。人々にとっては食料が足りないはずであり、ゴールドはなくとも生きていける。

ではゴールドと農作物、どちらを買えば良いのか? 過去の物価高騰、つまり1970年代の相場では、どちらがより上がったのか? 自信をもって即答できる読者がどれだけ居るだろうか。

金相場

ではまずゴールドから見ていこう。インフレ前、金価格はおよそ35ドルで推移していた。そもそもゴールドは1971年のニクソンショックまでドルに固定されていた(金本位制だった)から、それまで金価格は動かなかった。

だがこの固定が外されると、ドルの価値は暴落し、金価格は物凄い勢いで上がっていった。以下が当時のチャートである。

天井は1980年の875ドルだから、元々の35ドルから金価格はちょうど25倍になったことになる。

銀相場

これをまずシルバーと比べてみたらどうか。銀価格はもともと1.8ドル程度だったが、それが10年間のインフレを経てこうなった。

最高値は1980年の48ドルなので、27倍程度ということになる。

上昇幅はゴールドとほぼ同じだが、チャートを見るとシルバーの上昇の方がゴールドよりも遅れており、上昇を始めてからの角度が急であることが分かる。

インフレ対策でまずゴールドが買われ、ゴールドがかなり上がったのでそれにつられてシルバーが上がるイメージだろうか。ジム・ロジャーズ氏が何度もシルバーの出遅れを強調していることには理由があるのである。

ちなみにこれらの上がり方を上がりすぎだと思った人がいれば、それは正しい。何故ならば、10年間で物価自体は2倍強にしかなっていないからである。

一方でゴールドとシルバーはその10倍以上上がったことになる。貴金属購入の目的がインフレ回避だとすれば、この上昇は理屈に合わない。

だが世界中の人々がインフレを避けようとした一方で、ゴールドとシルバーの供給が限られていたことでこうしたバブルが醸成されたのである。

農作物

では一方で農作物はどうか。インフレとは食料品などが高騰して買えない状況なのだから、人々は食料品を買い占めるのではないか。ゴールドがいくらあっても食糧不足は一切解決されない。

では例えばとうもろこしの価格はどうなったか。

とうもろこしの価格は元々1.2ドル程度だったが、期間内の高値は4ドル程度なので、3倍強といったところだろうか。ゴールドやシルバーの上がり方に比べて物価自体の上昇率(2倍)に近い、常識的な上がり方だと言える。

小麦のチャートは以下だが、とうもろこしとそれほど変わらない。

元々1.5ドル程度だった価格が最高値では6ドルを超えているので、4倍強である。

結論

ということで、長期インフレ相場で賭けるとすれば農作物よりも断然貴金属だということが分かった。農作物が悪いわけではなく、農作物が比較的常識的な範囲で上下している一方で、貴金属はインフレ回避のために完全にバブルになるのである。

こうして1970年代の価格推移を見てみれば、コロナ後の金価格がコモディティ相場全体の下げ相場においても比較的強い理由が分かる。市場はインフレの長期化を見込んで1970年代のモードに入ろうとしているのである。

この金相場のバブルはインフレが完全に退治されるまで続くだろう。Fedの現議長パウエル氏は果たしてボルカー氏の金融引き締めが実体経済に引き起こした大不況を再現できるだろうか。出来なければインフレは止まらないのである。