引き続き、世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏の、デイヴィッド・ルービンスタイン氏によるインタビューである。
今回は、増加している米国債の利払い負担を軽減するため、金融政策で金利を人為的に下げることの問題点について語っている部分を紹介したい。
米国債の利払い問題
アメリカではコロナ後の金利上昇で、米国債の利払いが財政赤字の半分ほどまで達している。もはや、アメリカの財政は単に赤字を減らしても、大量に積み上がった米国債を何とかしない限りどうにもならない水準に達している。
だが、司会のルービンスタイン氏は次のように言う。もし国債の利払いが問題なのであれば、金融政策によって金利を下げてしまえば良いのではないか。それで問題が起きるのか。
ダリオ氏は次のように答えている。
もし金利が下がったら、人々は国債を持ちたくないと考えるだろう。
だからわたしの意見では、低金利政策をやり過ぎると国債の需要を失う。
国債の需要と供給
ダリオ氏の話は、一見矛盾している話である。米国債の買い手がいないから、例えば中央銀行が紙幣印刷で米国債を購入し、(国債の価格上昇は金利低下を意味するので)金利を下げる。
だから金融緩和で国債は買われるのだが、ダリオ氏の話では金融緩和でむしろ国債の買い手がいなくなってしまうという。
ダリオ氏は金融緩和で無理矢理金利を下げるのではなくて、財政赤字を改善し、国債の発行量を減らして国債の需要と供給の関係を改善することで、国債価格を上昇させ金利を下げるべきだと言う。
ダリオ氏は次のように述べている。
もし政府の支出を4%減らし、税収を4%増やして政府の財政を改善すれば、金利が自然に下がる恩恵を受けられるだろう。
赤字が改善され、国債の発行量が減れば、需要に対して供給が減って国債の価格が上がる。そうすれば金利が下がるので、自力で減らした財政赤字に加えて国債の利払い費用も減ることになる。
ダリオ氏はアメリカの財政問題のそうした解決を望んでいるのだが、ワシントンで与野党の重鎮たちと議論した結果、その解決策は95%の確率で実現しないという結論に達したようだ。
金融緩和と国債の需要
だからダリオ氏は、結局米国債は需要に対して発行量が過多になり、買い手不足で米国債は中央銀行が金融緩和によって救済しなければならなくなると考えている。
だがダリオ氏は、そうすれば米国債から買い手が逃げてゆくと言う。ダリオ氏は次のように述べている。
低金利を人為的に引き起こせば、国債が価値を失って国債に買い手がいなくなる。
中央銀行が買っているのだから、買い手はいるのではないのか。
確かに中央銀行が買っている間は、国債の需給に問題はない。だが金融緩和は通貨を下落させる。例えば日本で2022年にインフレによって長期金利が日銀の定めた上限に到達し、日銀が無制限の国債買い入れで金利を抑えなければならなくなった時、急激な円安が発生している。
2022年のチャートを見れば、日銀が無制限に日本国債を買い入れなければならなくなった瞬間がどこか、素人でも一目で分かる。

そうして通貨安はインフレをもたらし、黒田元総裁が始めた金融緩和を植田総裁が終わらせなければならなくなった。
だが日銀が国債の買い支えを止めようとしたとき、日本の長期金利は次のようになった。

金利の上昇がもう2年以上止まっていない。つまりは長期国債の価格が下落しているということである。
無理矢理買い支えていたのだから、それを止めなければならなくなった時、国債の本当の需給が市場に表れる。
その金利では誰も買わないから中央銀行が買わなければならなかったのであり、中央銀行の買いがなくなれば金利は元に戻る。
いや、元に戻るだけではなく、その時には政府の財政が危うくなっていると誰もが知っているのだから、金利は元々の水準を超えて上がってゆくだろう。
そして金利上昇による財政赤字の悪化を懸念し、国債から買い手が更にいなくなってゆくのである。
結論
それがダリオ氏が新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)で解説している、先進国でも財政破綻するシナリオである。
アメリカでは金利上昇による利払い増加が始まっており、日本ではアメリカほど金利は上がっていないが、国債の下落が止まっていない。
最終的には、日本もアメリカも両方の問題を合わせたような事態になる。つまり、金利が上昇し国債の下落が止まらない状態である。
ダリオ氏の新著はもはや予定調和のようにこれから日本はアメリカで起きる当たり前のシナリオを具体的に解説してくれている。英語版しか出ていないが、英語が読める人は日本語版を待たずに読了することをお薦めしたい。