レイ・ダリオ氏: 株価の上昇がバブルに過ぎないと言える理由

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が、自身のブログでバブル崩壊のプロセスを解説している。

米国株はバブルだ

ダリオ氏は、米国株はバブルだと言っている。

しかし株価がバブルであるとはどういうことなのか。ダリオ氏は今回次のように言っている。

金融資産は簡単に作ることができるが、本当の価値を持っているわけではない。

金融資産は現金化されて実際に使用されるまで価値を持たない。

値上がりはしたがまだ売っていない株式に乗っている利益、含み益というものは、普通は既に自分のものになっているとして考える。株価はそれからも動くだろうが、投資家は売りたくなったらいつでも売って、その価格で利益を確定できると考えているからである。

例えば、1万円で買った株式が3万円に値上がりしていたとしたら、投資家は普通自分は3万円分の資産を持っていると考える。

だがダリオ氏はそこに罠があると考えている。

含み益の危うさ

1人の投資家の資産について言っているのであれば、含み益は既に自分の資産になっていると言っても良いだろう。いつでも株式市場に行って、今の株価で株式を売ることができるというのは大抵の場合事実だからである。

しかしダリオ氏は次のようなケースについて話している。

例えば、あるスタートアップの創業者が自分の会社の株式の一部を5,000万ドル分を売却し、その結果会社の評価額は10億ドルと評価されたとしよう。

するとこの創業者は億万ドル長者ということになる。その資産価格の裏には10億ドルなど実際には存在していないのにだ。

どういうことかと言うと、スタートアップの時価総額というのは、基本的には最後にその会社が売買されたときの株価によって決まる。

例えば、株式全体の5%を5,000万ドルで売ったとすれば、会社全体、つまり株式100%の資産価格は10億ドルとなる。

この計算に基づけば、例えば株式の50%を持っている人は5億ドルを持っていることになるが、その5億ドルは何処にも存在していない。最後の取引に使われたのはたったの5,000万ドルである。その5,000万ドルが架空の5億、10億を生み出す。しかしその10億は何処にあるのか?

そして次に株式が売買される時に同じ値段で株式が売れる保証も何処にもないのである。

株価は一部の売買の結果でしかない

この話は、証券取引所で毎日売買されている公開株の場合も同じである。

1人の投資家の資産について考えている時には、こうした話は何の問題にもならない。投資家はいつでも市場価格で株式を売ることができるからである。

だが、市場全体がバブルかを考える時には、このスタートアップの例の方が実態に近いのである。

何故ならば、今その株価が3万円で取引されているからといって、その株式の保有者すべてが保有する株式を3万円で売ることができるわけではないからである。

ダリオ氏は次のように書いている。

同じように、公開株の買い手がある価格で株式をいくつか買えば、その価格で存在するすべての株式の価値を算出し、会社の全体の価値も決まる。

もちろん、そうした会社は本当にはそんな価値はないかもしれない。資産とは、結局それがいくらで売れるのかによって価値が決まるからだ。

株価、つまり市場価格というのは、最後に取引された数株の価格でしかない。その数株は確かにその価格で取引されたが、残りのすべての株が同じ価格で取引される保証などどこにもない。というか、それは無理だろう。

結論

したがって、投資家にとっては市場価格というのが一部の取引のみで成り立っている特殊な価格なのか、それとも他の多くの投資家も同意している多数意見なのかということが重要になる。

後者の場合には多くの株式が売り出されてもそれほど株価は下がらないだろうが、前者の場合には多くの株式が売り出されると、一部の市場参加者だけが同意していた氷上の株価は、あっという間に切り下げられてゆくだろうからである。

これがバブルかバブルでないかの定義である。そして、ダリオ氏は今の米国株をバブルだと言っている。

だが、ダリオ氏はバブルはまだ80%だと言っている。100%になるまでには、まだ距離があるということだ。

バブルがここから100%になって、そして崩壊してゆくためにはどのような条件が必要なのか。

ダリオ氏は上記の記事で、金融引き締めや増税がトリガーになり得ると説明していた。投資家が何らかの理由で現金を必要とする状況になり、含み益で満足していた投資家が現金を求めて株式を現金化し始める時、実は含み益とは架空のお金でしかなかったと知ることになるのである。

ダリオ氏は次のように言っている。

金融資産を現金化するためには、その資産を売らなければならない。それがバブルが崩壊する主な原因だ。

まだバブルは100%ではないが、過去の巨大バブルと比較するヘッジファンドマネージャーが増えている。

ダリオ氏も1929年からの世界恐慌を引き起こした当時の米国株バブルについて語ることが多くなっている。過去のバブルについては、ダリオ氏が著書『巨大債務危機を理解する』で詳しく解説をしているので、そちらも参考にしてもらいたい。

過去の株価バブルがどのようにして弾けたのかを知ることは、米国株のこれからの動向を予想する上で非常に重要である。


巨大債務危機を理解する