Bridgewater、ダリオ氏が割高と呼んだNVIDIAなど米国ハイテク企業を大幅買い増し

世界最大のヘッジファンドBridgewaterが、創業者のレイ・ダリオ氏が割高と見なしたアメリカのハイテク株を軒並み買い増ししている。興味深いのでその真意を探ってみたい。

米国ハイテク株は割高か

ダリオ氏は最近のインタビューで次のように言っていた。

AIと言えばすぐに思いつくような高成長株、特にマグニフィセントセブンのような銘柄については、こうした銘柄に対し楽観的な人々が計算する将来の利益の現在価値を採用して考えてもかなり割高になっていると思う。

「AIと言えばすぐに思いつくような高成長株」というのは明らかに、AIの頭脳部分であるGPUを製造しているNVIDIAや、ChatGPTを提供するOpenAIに出資しているMicrosoftなどの銘柄を指しているだろう。

そして、機関投資家の米国株買いポジションを開示するForm 13Fが公表されて、かなり驚いた。Bridgewaterの保有銘柄筆頭がまさにこうしたハイテク株で埋め尽くされていたからである。

Bridgewaterの保有銘柄

今回公開されたBridgewaterの保有銘柄のうち、株価指数のETFなどを除いて金額の上位5位を並べると次のようになる。

  • NVIDIA: 11億ドル
  • Alphabet: 10億ドル
  • Microsoft: 9億ドル
  • Meta Platforms: 6億ドル
  • Salesforce: 4億ドル

まさに米国ハイテク株ばかりが並んでいる。しかもAIと聞いて投資家が真っ先に思い浮かべるであろうNVIDIAとMicrosoftの2銘柄が入っている。

これはどういうことなのか? ダリオ氏の発言は何だったのだろうか。

ダリオ氏とBridgewater

これを考えるにはまず、ダリオ氏が最近Bridgewaterの株式をすべて売却し、取締役会から身を引いたことを思い出す必要がある。

ダリオ氏はこのことをBridgewaterが自分から独立して歩んでゆく新たな門出だと祝福してはいるが、これまでのBridgewaterの内情を知っている人間は、これがそう単純な話ではないことを知っている。

ダリオ氏は2022年に引退してからBridgewaterの経営陣としばしば対立してきた。ダリオ氏の引退後にBridgewaterの運用成績が悪化したことから、ダリオ氏は経営のコントロールを取り戻そうとしたが、ダリオ氏自身が任命したCEOであるニア・バー・デア氏を含む経営陣に抵抗された。ダリオ氏はBridgewater内に自分のコントロールする新たなファンドの設立を提唱したが、経営陣に拒否された。

それから数年である。今回のBridgewaterの「自立」は、ダリオ氏がBridgewaterのコントロールを得られないなら株式を売った方がましだと考えた結果ではないのか。Yahoo! Financeによれば、共同CIOのボブ・プリンス氏やグレッグ・ジェンセン氏もダリオ氏の引退を促していたという。ジェンセン氏は、学生インターンだった頃にダリオ氏が自分の代わりにインタビューに立たせた人物である。

新生Bridgewaterのポートフォリオ

いずれにせよ、これでダリオ氏はBridgewaterの銘柄選択に影響力を与えられなくなった。ダリオ氏が割高と考えていると思われるNVIDIAについては、筆者も必ずしも割高とは言えないと以下の記事に書いておいた。

特に、今回の開示は6月末のポジションであり、前回の開示は3月末のものだから、これらのハイテク株の買い増しは4月の株安を受けてのものと思われる。

株価が反発した今のバリュエーションはともかく、株安で下がっていた頃のNVIDIAの買い増しは、筆者には完全に合理的なトレードのように見える。NVIDIAの株価は次のように推移している。

結論

一方で、ダリオ氏が長年中国株を推し続けていることは有名だが、今回の開示からAlibabaやBaiduなどのアメリカにも上場している中国株のポジションがごっそり消えている。

良くも悪くも、ダリオ氏と袂を分かった新たなBridgewaterの始まりということだろう。

2022年にダリオ氏が一線を引いてからのBridgewaterのパフォーマンスは、悪くはないが輝かしくもない。伝説的な投資家と袂を分かっても世界的なヘッジファンドは世界的なヘッジファンドであり続けられるのだろうか。

ダリオ氏は、仕事と人生について書いた著書『PRINCIPLES 人生と仕事の原則』で、Bridgewaterの歴史や従業員との軋轢についても触れている。興味のある人は読んでみても良いだろう。


PRINCIPLES 人生と仕事の原則