引き続き、世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏の、デイヴィッド・ルービンスタイン氏によるインタビューである。
米国債の買い手不足
ダリオ氏は、ワシントンの政治家たちと財政赤字について話した結果、政治家が米国政府の債務問題を解決するという希望をほぼ失ったようだ。
アメリカの政治家にとって、増税や支出削減は政治的に難しいという政治家の生の声をダリオ氏は伝えている。政治家から直接聞いた話であり、投資家にとってはほとんどインサイダー情報と言えるような有難い情報なのだが、そこから何が分かるか。
コロナ後の金利上昇で米国債の利払いはアメリカの財政赤字の半分ほどに増加しており、財政赤字は米国債の新規発行で賄われているので、このままでは米国債の量が毎年指数関数的に増えてゆく。
同じように米国債の買い手が指数関数的に増えるのでなければ、米国債は何処かのタイミングで買い手不足に陥らざるを得ない。これはもう数学的に避けられないことである。
それで財政赤字を下げて米国債の発行量を減らさなければならなかったのだが、ダリオ氏が政治家と話したところ米国政府にはそれはどうやら出来ないらしい。
では米国債はどうなるのか。ダリオ氏の予想は、結局中央銀行がそれを買い支えなければならなくなるというものである。
紙幣印刷によるドル下落
それは日本がアベノミクスでやったことである。通貨の価値を犠牲にして国債を買い支える。それで自国通貨に何が起こったかは、日本人が一番良く知っている。
ドルに同じことが起きようとしている。ではドル円が下がるのか。だがダリオ氏は、他の国も多かれ少なくとも似たような状況だと考えている。
だからダリオ氏はドルだけが下がるとは考えていない。だが通貨の代わりになるもので、政府が印刷する通貨のようには価値が下がらないものが存在する。
ダリオ氏は次のように述べている。
状況はこういうものだ。だからドルの価値に注意を払うべきだ。他の通貨に対するドルの価値だけでなく、ゴールドに対するドルの価値を見る必要がある。
ゴールドは世界第2位の準備通貨だ。ドルが1位、ゴールドが2位で、その後にユーロと円が続く。
ゴールドは、ドルからの資金逃避で暴騰している。詳細は以下の記事に委ねるが、主な買い手はドルを外貨準備に持ちたくない国の中央銀行である。
金価格のチャートは次のようになっている。

このチャートを見ればゴールドが上がっているように見える。だがチャートを上下逆にすれば、要するにゴールドに対してドルが下落しているのである。
そして、ダリオ氏の予想によれば、ドル下落の本番はこれからである。ダリオ氏は次のように述べている。
ドルの価値は下落させられるだろう。その目的のために金利は人為的に低い水準まで下げられる。
景気後退時のドル
ダリオ氏は特に、景気後退時の金融緩和を心配している。ダリオ氏は次のように言っている。
わたしの懸念は、それが景気後退時に起きることだ。ちなみにそれが一番可能性の高いシナリオだ。
今はまだトランプ政権も、口の上では財政赤字を縮小するということを言っていられる。
だが景気後退になれば、口の上でさえそういうことを言っていられなくなる。しかし、ただでさえ米国債の買い手不足が懸念される状況で、前回のコロナ禍における景気後退時のような財政赤字の拡大をやれば、米国債の需要と供給は簡単に壊れてしまうだろう。
ダリオ氏は次のように続けている。
そうなれば財政赤字は増加する。そして景気後退時に人々が「よし、増税を受け入れよう」とか「年金の減額を受け入れよう」とか言うはずがない。
そして政治的・経済的に極めて困難な状況に陥る。
そうなれば、中央銀行はもうほとんど無制限に国債を買い入れなければならなくなるだろう。そしてドルが犠牲になってゆく。
結論
その時にゴールドはどうなるのか。それが今回の記事のテーマである。ゴールドだけでなく、シルバーやプラチナもいよいよ上がってきたので、個人的にはそちらにも注目している。
ダリオ氏がこの記事で言っているようなドル下落のシナリオは、著書『世界秩序の変化に対処するための原則』でダリオ氏が予想している、覇権国家アメリカの債務過多による長期衰退シナリオの一部に過ぎない。
インフレが始まった時点で、国家が債務を自由に増やせる段階は終わったのである。それは年老いた国家の凋落の始まりを意味する。アメリカも日本もそうである。