引き続き、世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏の、デイヴィッド・ルービンスタイン氏によるインタビューである。
今回はアメリカの財政赤字とドル相場の関係について語っている部分を紹介したい。
アメリカの財政赤字
ダリオ氏はこれまで、アメリカの財政赤字の問題に警鐘を鳴らし続けてきた。コロナ後のインフレで金利が上昇し、これまでほとんどゼロ金利だった大量の米国債に多額の利払いが発生している。
それで今やアメリカの財政赤字の半分は借金の利払いになっている。
米国債の利払いは新たな米国債発行で賄われるので、財政赤字を解決しなければ、米国債はここから指数関数的に増えてゆく。米国債の買い手が同様に指数関数的に増えてゆくのでなければ、需要と供給の関係から米国債はいずれかの時点で下落せざるを得ない。
だからダリオ氏は、財政赤字をGDPの7%から3%まで下げるべきだと主張し続けてきた。ダリオ氏はわざわざワシントンDCまで行って共和党と民主党の重鎮たちと財政赤字について議論した。
その結果どうなったか? ダリオ氏はどうやら財政赤字の解決を諦めたようである。
政府債務を処理する方法
ダリオ氏の政治家たちとの対談はそれほどまでに絶望的だったらしい。
財政赤字は解決できる、クリントン政権は実際に赤字を減らしたではないか、と希望を持って語り続けていたダリオ氏は、前回の記事でアメリカの政治家たちが財政赤字を減らして債務問題を解決する確率について次のように述べた。
5%だ。
ダリオ氏が政治家と何を話したのかは上記の2つの記事を参照してほしいが、ダリオ氏は政府債務の問題が赤字削減で解決されるという希望をほぼ捨てたようだ。
では債務問題はどうなるのか。このままでは米国債の発行量は買い手の数を上回り、米国債は買い手不足に陥るだろう。
ダリオ氏は次のように述べている。
アメリカがこれから債務問題に対処する方法は、政府債務を処理するいつもの方法だ。国家にお金がなくなれば、これまでいつもそれが行われてきた。
紙幣を印刷し、通貨の価値を下げ、低金利を人為的に作り出す。国債の所有者は人為的に下げられた低い金利を受け取ることになる。
買い手がいないなら、中央銀行が米国債を買うしかないのである。
それは要するに量的緩和である。だが、インフレが起きている状況で量的緩和をやればどうなるか。
ダリオ氏は次のように述べている。
それが日本が日本国民に対してやったことだ。そしてアメリカもそれを行なう。
アベノミクス以来、日本円の価値はドルに対してほぼ半分になったが、円の下落が本格化したのはコロナ後のインフレで長期金利が日銀の設定した上限に達し、日銀が金利を抑えるために無制限に日本国債を買い入れなければならなくなった瞬間である。
その瞬間がいつだったかは、2022年のドル円のチャートを見れば一目瞭然で分かる。

このタイミングから日本円は物凄い勢いで下落して行った。国債の金利上昇を抑えるために中央銀行が国債を買い入れるとは、こういうことである。
今度はドルに対して同じことが起きようとしている。
結論
司会のルービンスタイン氏は、自分のまだ生まれていない曾孫はその悪影響を受けるのだろうかとダリオ氏に聞いたが、それはあまりにナイーブな問いかけだ。
ここの読者ならばダリオ氏がどう答えるかは予想できるだろう。ダリオ氏は次のように答えている。
もっと早く起きる。
多分あなたの曾孫の世代は、すべてが終わった後に来る。
ルービンスタイン氏の曾孫には良いニュースではないか。現在を生きるわれわれには、明らかに悪いニュースである。
ダリオ氏はこれまでのインタビューで、米国債の暴落が始まるまで1年から3年だと答えている。そのためにダリオ氏は新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)まで書き下ろしている。
そこにはこれからアメリカに何が起きるかがかなり詳しく予想されている。英語版しか出ていないが、英語が読める人は今読むべきだろう。日本語版が出る頃には、すべてが終わっている可能性が十分あるからである。