多くの投資家は知っての通り、ここ2年ほど金相場が物凄い勢いで上昇している。このゴールドの上昇相場はいつまで続くのか。ゴールドは上がりすぎではないのか。
今回の記事では、金相場の長期的な見通しについて説明したい。
ゴールドの上昇相場
ゴールドはもう長らく上がっている。米国株よりも上がっている。金価格のチャートを長期で見ると次のようになっている。

長期的に上がってはいるのだが、特に去年からの上昇が大きい。ここの読者は知っての通り、筆者は去年からゴールド推しの記事を何度も何度も書いてきた。
- フォン・グライアーツ氏: ゴールドとシルバーの本当の上げ相場はこれから (2024/6/10)
- レイ・ダリオ氏: 人々が自国通貨の無価値さに気付くにつれてゴールドやシルバーへの逃避が加速する (2025/1/3)
金価格上昇の理由
このゴールドの上昇相場は、アメリカの債務問題が根本的な原因である。アメリカの金融政策は、低金利政策が量的緩和に進化したのち、現金給付を行わなければ実体経済を支えることができないところまで来た。
その現金給付がインフレを引き起こした。アメリカのインフレ率は現金給付で9%まで上がったのち、2%台まで落ち着いた。
だが金相場はインフレが収まったとは思っていないようだ。現状は紙幣印刷が一時停止になっているだけで、金融市場はまた何かの拍子にアメリカは紙幣印刷を再開しなければならなくなると考えている。
その理由は、インフレ後の金利上昇で、大量の米国債に多額の利払いが発生していることである。利払いは新規の国債発行で賄われるので、金利がゼロにならない限り国債の発行はここからねずみ算式に増えてゆく。
指数関数的に増加する米国債を、結局は中央銀行が紙幣印刷で買わなければならなくなる。金相場はそれを懸念し、ゴールドを長期的な上げ相場へと向かわせているのである。
物価高騰時代におけるゴールド
こういう状況は前にもあった。1970年代の物価高騰の時代である。
インフレの時代にはゴールドは不合理なほどの物凄い上昇相場に突入する。1970年代には、長期的なインフレが始まってから終わるまでの10年ほどでゴールドは25倍になった。

現在の金相場も明らかにこの時と同じインフレのモードに突入している。金相場は明らかに、長期的なインフレが終わったとは考えていない。
金価格上昇はいつまで続くか
当時の25倍に比べれば、コロナ後に金価格が2倍になろうが、ほとんどまだ何も始まっていないようにも見える。
その比較は、金価格が最終的にどこまで行くのかを考えるために1つの目安にはなる。
だが、当時の25倍という数字には何の経済的根拠もなかった。金価格はインフレを予期して物価より早く上昇したが、物価の上昇は結局合計で3倍にだった。インフレを避けるためのゴールドという点で言えば、25倍はどう考えても上がり過ぎだったのである。
金価格は、実際にはドルからの資金逃避が終わるまで上がり続けた。どんなバブルでもそうだが、資金流入が続く限り理屈や数字を無視して何処まででも上がり続ける。
ゴールドはアメリカの財政問題を受け、明らかにドルからの資金逃避で当時と同じ長期的な上げ相場に入っている。これがいつ終わるのかを考えるには、理論的な数字を無視して上がり続けた1970年代のように、金価格の水準を考えるよりも資金流入がいつ終わるのかを考える方が合理的である。
1970年代にはゴールドの上げ相場はいつ終わったか? アーサー・バーンズ氏などのFed(連邦準備制度)の議長が散々金融緩和を行なった後で、ポール・ボルカー議長がインフレ退治のために強力な金融引き締めを行い始めた1980年が、25倍になったゴールドの上げ相場の天井だった。
ボルカー氏が金融緩和の時代を完全に終わらせたことが、ゴールドのとてつもない上げ相場の終わりだった。それでドルからゴールドへの資金流出は止まり、ゴールドは長期の下落相場に入って行った。
だから今回も恐らくそうなるだろう。第2のボルカー氏が現れ、金融緩和の懸念が完全に吹き飛ぶ時が、今回のゴールドの上昇相場のピークである。
結論
しかし問題は、トランプ大統領に金融緩和の時代を終わらせるような気配は見えないということである。利下げを行わないことでパウエル議長を何度も批判しているトランプ氏は、来年5月のパウエル氏の任期終了に伴いもっと金融緩和に積極的な新議長を選出しようとしている。
実際、Bridgewaterのレイ・ダリオ氏は、ワシントンDCで与野党両方の重鎮たちと話した結果、財政赤字の削減はどうも政治的に無理ではないかと考え、紙幣印刷とインフレによる政府債務の帳消しシナリオを予想している。
ダリオ氏は赤字削減による健全な債務問題解決を願ってきた一方で、歴史的に見れば紙幣印刷による債務解決は避けられないと著書『世界秩序の変化に対処するための原則』で予想している。
結局、紙幣印刷の懸念は当分消え去らないのではないか。そしてそれは、金価格の天井がまだまだ見えないということを意味する。
1970年代にそうだったように、金相場は価格が高いかどうかで見てはならない。資金流入がいつ終わるかで見るべきである。
そのシナリオが終わるまで、ドルからは資金が流出し続け、金価格は長期的に上がり続けるだろう。それがダリオ氏が『世界秩序の変化に対処するための原則』で予想している基軸通貨ドルの終わりなのである。

世界秩序の変化に対処するための原則