引き続き、DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏の、Bloombergによるインタビューである。
今回は金相場について述べている部分を紹介したい。
米国債とゴールド
これまでの記事でガンドラック氏は、4月の株安で一緒に下落した米国債はもはや安全資産として機能していないと指摘していた。
リスク資産と一緒に下落するならばそれはリスク資産なのである。リスク資産が下落した時に上昇するのが安全資産である。
リーマンショックの時には、米国債は上昇しゴールドは下落した。
だからこの意味ではゴールドはこれまで安全資産ではなかった。だがそれが変わりつつある。
米国債からゴールドへのパラダイムシフト
ガンドラック氏は次のように述べている。
われわれは非常に大きなパラダイムシフトに直面している。資金はアメリカに流入しなくなり、長期米国債はもはや安全資産ではなく、突如ゴールドがその代わりとなる。
米国債が危ういということは去年から言われていた。ガンドラック氏は、去年9月からの利下げで長期国債の金利がむしろ上昇したことから、米国債から資金が流出していると指摘していた。
そして米国債の病状は4月の株安で株価と一緒に下落したことによってもう一歩悪化した。
だがこの時に下落した米国債の代わりに上がったものがある。ゴールドである。
暴騰するゴールド
ここの読者は知っての通り、筆者は去年の後半から怒涛の勢いでゴールドの記事を量産してきた。
- フォン・グライアーツ氏: ゴールドとシルバーの本当の上げ相場はこれから (2024/6/10)
- ガンドラック氏: インフレでもデフレでも金価格は上昇する (2024/11/4)
- レイ・ダリオ氏: 人々が自国通貨の無価値さに気付くにつれてゴールドやシルバーへの逃避が加速する (2025/1/3)
それが何のためだったか、今ならば明白だろう。金価格は去年から次のように推移している。

ガンドラック氏は次のように述べている。
Costcoはゴールドを消費者向けに販売し、在庫はすぐになくなった。
投資家のみならず一般の消費者にもゴールドが売れているとすれば、それは興味深いことである。日本の個人投資家がようやく米国株の存在に気付き始めた頃には、世界では新たな別のトレンドが生まれている。米国株はもう数十年前に見ておくべきだっただろう。祭りはもう終わりである。
ゴールド上昇の理由
金価格の急上昇についてガンドラック氏は次のように述べている。
金価格が1,800ドルだったのはそれほど前のことではない。だが2,000ドルを超えた後、一直線に上昇した。
ゴールドは今や本物の資産クラスとなった。もはや終末論者や過激な投機家だけのものではない。
今やまともな資産クラスとして見られており、中央銀行がゴールドを積み上げている。
金価格上昇の重要な要因の1つは、各国の中央銀行がドルの保有を減らして代わりにゴールドを積み上げていることである。
中央銀行の買いによる金価格の上昇については去年の10月にジョニー・ヘイコック氏が既に指摘していた。
だがそれはまだ長期トレンドの始まりに過ぎない。
中央銀行のゴールド買い
ガンドラック氏は次のように述べている。
ゴールドはずっと埋もれていた。中央銀行が保有を減らしていたからだ。中央銀行はそれを買い戻している。
ゴールドはかつて中央銀行にとって必須の資産だった。ゴールドは世界共通の通貨だったからだ。
だがそこからドルがその座を奪った。だから中央銀行は徐々にゴールドを売り、ドルを増やしていった。
ヘイコック氏が次のように言っていたことを思い出したい。
1980年には、世界の中央銀行のバランスシートの74%はゴールドだった。74%だ。
しかし今では20%だ。これは大幅な下落だ。
それこそがドルの覇権だった。だが今や米国債の信頼はアメリカの財政赤字やウクライナ戦争以後のドルを使った経済制裁で揺らいでおり、アメリカへの依存を減らしたい国の中央銀行はドルや米国債を急いでゴールドに替えている。
中央銀行のゴールド売りがゴールド買いに変わるとき、その長期トレンドの転換が起きるとき、金相場はこれからどうなるのか。それが筆者が去年からずっと書いているテーマなのである。
結論
金価格は高い。それは確かである。それでも金価格が上昇を続けている理由は、中央銀行にとってドルや他の国の通貨から逃れたければ、ゴールドを買う以外に選択肢がないからである。
だからガンドラック氏は中央銀行を次のように皮肉っている。
ゴールドは300ドルだった頃からずっと持っている。
中央銀行はゴールドが300ドルや400ドルだった頃にゴールドを売った。それを3,000ドルで買い戻している。彼らは長期投資が上手くないようだ。
だがそれでも中央銀行のゴールド買いは始まったばかりである。中央銀行のポートフォリオの20%のゴールドが以前の74%に戻るとすれば、それだけの資金の買いが入れば、金価格はどうなるか。
ゴールドの上昇はドルの覇権の終わりと密接に関連している。基軸通貨ドルの衰退については、レイ・ダリオ氏の『世界秩序の変化に対処するための原則』を参考にしてもらいたい。ダリオ氏もゴールドの上昇を予想している。

世界秩序の変化に対処するための原則