ガンドラック氏: 米国債はもはや安全資産ではない

DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏がBloombergのインタビューでアメリカの財政問題と米国債の最近の動向について語っている。

2025年前半の金融市場

2025年前半の金融市場は、トランプ政権の関税政策に始まり、やや騒がしい半年だった。米国株は大きく下がり、関税が延期されたことでそこから反発した。

この半年の金融市場の動きは多くの機関投資家を驚かせた。多くの人は株価が上がったとか下がったとかを気にしているが、金融市場にとって重要なことはそういうことではない。

それはプロが金融市場を見る見方ではない。もっと重要なことがある。ガンドラック氏は次のように述べている。

過去15年間でS&P 500の調整局面はいくつかあった。そしてそのすべての局面で、S&P 500が10%以上下落したとき、ドル指数は上昇した。

だが今回S&P 500が20%近く下落したとき、ドルは下落した。これはおかしな動きだ。金融市場の挙動が変わり始めている。

ドルからの資金逃避

長年世界の金融市場をトレードしてきた機関投資家にとっては、それは異常なのである。

先進国の金融市場では、株価が急落すると自国の投資家が新興国など海外への投資を手仕舞いするので、資金が自国に戻ってきて自国通貨が上昇する。

しかし発展途上国の金融市場では株価が下落すると海外投資家が自国から資金を引き揚げてゆくので、自国通貨が下落する。

アメリカはこれまで当然前者だったのだが、今年の4月の株安では株価下落局面にドルと米国債が下落し、まるで途上国の金融市場のようになった。

だから機関投資家にとっては、株価が上がったとか下がったとかよりも、その事実の方が驚異的なのである。

利下げで長期金利上昇

だが4月のことはアメリカの金融市場がおかしくなり始めた最初の兆候ではなかった。ガンドラック氏は米国債の挙動がおかしいことを半年前から指摘していた。

ガンドラック氏がおかしいと思ったのは、去年9月からのFed(連邦準備制度)の利下げに対する長期国債の金利の動きである。

ガンドラック氏は次のように述べている。

Fedが利下げを開始するとき、普通は短期だけでなく長期の金利も下がる。10年物国債の金利は最初の利下げですぐに低下し、その金利低下はしばらく続く。

だが今回、10年物国債の金利は上がった。

去年の9月からFedが政策金利を下げたにもかかわらず、長期金利は以下のようにむしろ上がっている。

ポール・チューダー・ジョーンズ氏などがFedの利下げ再開を予想する中、利下げするとむしろ長期金利が上がるのではないかということが懸念されている。

金利上昇と米国債の利払い

国債の金利上昇は価格下落を意味する。つまり、米国債の信用がなくなりつつあり、それがこうした市場の動きに繋がっているのである。

何故こうなったのか。ガンドラック氏は次のように述べている。

2.1兆ドルの財政赤字を続ける限り、米国債の利払いは看過できない問題だという認識が生まれつつある。

アメリカではコロナ後の金利上昇で米国債の利払いが急増で、財政赤字の半分を借金の利払いが占める状況となっている。

ガンドラック氏は次のように述べている。

多くの人が過小評価しているのは、米国債の平均利回りが上昇していることだ。

多くの米国債が2009年や2008年などに発行されている。

それらの国債の金利は0.25%程度で発行されている。だが今の金利は4.25%辺りだ。つまり、利払いは4%増加する。

ガンドラック氏が指摘しているのは、金利が低かった頃に発行された米国債が満期を迎えると、アメリカは新たな米国債を発行して借り換えなければならないが、今の金利は4%を超えているということである。

このように、これまで発行された米国債が満期を迎えるたびに、米国政府が支払う利払いの額は増加してゆく。そして増加した利払いは新たな国債発行で賄われ、借金が借金を増やしてゆく。

結論

少し前まで政府債務はいくら増やしても問題ないということがまことしやかに囁かれていた。金利がゼロだった頃には、借金をいくら増やしても利払いはゼロだった。

だがインフレが起こり金利が上昇すると、借金の利払いがねずみ算式に借金を増やしてゆく状況に繋がる。

一般の人々はそれを懸念していないかもしれないが、機関投資家は皆この状況を知っている。だからドルや米国債から逃げ出し、ゴールドを買っているのである。

それで株価が下落した時にいつも買われていたドルや米国債は、もはやそういう資産ではなくなっている。ガンドラック氏は次のように述べている。

こうした問題が累積し、今や長期の米国債はまともな安全資産ではないという認識が広がりつつある。

ドルと米国債から資金の流出が始まった時期は、過去にもあった。例えば1929年から始まった世界恐慌である。

Bridgewaterのレイ・ダリオ氏が著書『巨大債務危機を理解する』でその時に米国株がどうなったのか解説している。こういう状況で米国株はどうなるのか。未読の人は読むことをお勧めしたい。


巨大債務危機を理解する