引き続き、ポール・チューダー・ジョーンズ氏のBloombergによるインタビューである。
今回はFed(連邦準備制度)の利下げとドル相場の動向について語っている部分を紹介したい。
米国債の利払い
前回の記事でジョーンズ氏は、Fedのパウエル議長が来年5月に退任することをきっかけに、トランプ政権がFedに金融緩和をさせると予想していた。
その理由は、コロナ後の金利上昇で米国債の利払いが財政赤字の半分ほどに達してしまっていることである。
今や財政赤字はほとんど米国債の利払いと年金によって生み出されていると言っても良い。だからジョーンズ氏は次のように述べている。
もしわたしが大統領なら、一番最初にやることは考えられる限り一番ハト派のFedの議長を選び、利払い費用を下げることだ。
緊縮財政と金融緩和の組み合わせ
金融緩和をするだけなら誰にでもやれる。だが今の状況でもしそうすれば、インフレが再発するだろう。
世界的なヘッジファンドマネージャーであるジョーンズ氏は、そんな単純なことを提案しているわけではない。ジョーンズ氏は次のように続けている。
わたしなら、自分の選んだFedの議長と「わたしは緊縮財政をして財政赤字を下げる、だから君は金利を大きく下げてくれ」という合意をする。
緊縮財政と金融緩和の組み合わせである。これはBridgewaterのレイ・ダリオ氏が「美しい債務削減」と呼ぶやり方で、ダリオ氏は長年の不動産バブルが完全崩壊した中国に対し、このやり方を推奨していた。
ダリオ氏の以下の記事の発言をもう一度引用しておこう。
わたしの考えでは、中国政府は債務削減(デフレ的で、経済を減速させ、債務負荷を減らす)と金融緩和(インフレ的で、経済を刺激し、債務負荷を減らす)を両方行なうべきだ。
そうすればインフレ的な債務不可減少とデフレ的な債務負荷減少が互いにバランスを取り合う。これがわたしの言う「美しい債務削減」だ。
このやり方は万能ではない。通貨の価値が犠牲になるからである。だが通貨を犠牲にして経済を助けるこのやり方でさえ、緊縮財政が実現できなければ不可能である。
しかしそれは政治的に可能なのか。支出の多くは年金である。ジョーンズ氏はその辺りをどう考えているのかと言えば、次のように恐ろしいことを言っている。
いずれ金融市場が緊縮財政を要求する時が来る。
今年の4月のような、米国株と米国債とドルが同時下落するような状況がもう一度起きるということである。筆者もそう思う。
美しい債務削減で犠牲になるドル
さて、政策金利を下げるとして、どれくらい下げなければならないのだろうか。
ジョーンズ氏は次のように述べている。
政策金利を大きく下げるとは、例えば2.5%までだ。
2.5%まで政策金利を下げれば、長期金利は例えば0.5%か1%くらい下がるだろう。そうなれば利払い費用は1,750億ドル減る。
現在の政策金利は4.25%だから、およそ2%の利下げをすることになる。金融市場の織り込みが0.5%だから、その4倍の利下げである。
そうなればドルの下落は避けられない。ドル預金も4%の金利という点だけは悪くない投資だったのだが、それもなくなってしまう。ドルの保有者がどうするかは明らかだろう。
結論
だが筆者の見解ではジョーンズ氏は1つ見落としていると思う。利下げをしたとして、長期金利が果たして下がるのかという問題である。
実際、去年9月からの利下げの時には、インフレ懸念で長期金利はむしろ上がっている。

もし今回も利下げで長期金利がむしろ上がってしまうような状況になれば、Fedは長期金利そのものを無理矢理下げなければならなくなる。
それは日銀のイールドカーブコントロールと同じやり方であり、日銀が長期金利を無理矢理押さえなければならなくなった2022年春からドル円のチャートは次のようになっている。

これが日本流の紙幣印刷であり、Bridgewaterのダリオ氏は債務削減に失敗するとアメリカもこうなると主張している。
ダリオ氏が著書『世界秩序の変化に対処するための原則』で予想している基軸通貨ドルの衰退がまさに始まろうとしている。
ジョーンズ氏は利下げで済むと考えているようだが、果たしてそうだろうか。ジョーンズ氏はそれでも次のように述べている。
来年、アメリカは政策金利を劇的に下げることになる。ドルは恐らく下がるだろう。恐らく大きく下がるだろう。