マクラウド氏: 日本国債下落が世界的な国債下落に繋がる可能性

Von Greyerzのパートナーであるアラスター・マクラウド氏が、自社配信動画で日本の経済政策を痛烈に批判している。

日銀の量的緩和

アベノミクス以来、日銀は大量の紙幣を印刷してきた。その紙幣で日本国債を購入した結果、日本国債の大部分は日銀によって保有されている状況となっている。

何故日銀が日本国債を買い支えなければならなかったかと言えば、日本政府が大量の借金を抱え、しかもその借金を増やし続けているからである。

マクラウド氏は次のように言っている。

日本の状況は本当に普通じゃない。日本政府と日銀のやり方は完全にケインズ経済学だ。つまり、景気を刺激するためにいつでも負債を使えば良いと思っている。

マクラウド氏が「ケインズ経済学」をほとんど悪口のように使っているのが面白い。

ケインズ経済学は、単に穴を掘って埋めるだけの公共事業がプラスになることがあるというケインズ氏自身の主張に裏付けられるように、負債による景気刺激の短期的な効果を主張した一方で、それが長期的にどういう影響を実体経済に及ぼすかについてはほぼ無視したことで有名である。

その結果、負債どころかインフレまで良いものであるかのように喧伝されたが、日本国民はインフレになって初めてインフレの意味が物価上昇だったという衝撃の事実に直面している。

日本国民はそれを自分で欲しがったのである。何のために? マクラウド氏は問う。

日本政府と日銀は酷い量の日本円を印刷している。何のために? ほとんど目的などない。

日本の特殊な状況

はっきりと言ってしまえば、負債増加の目的とは政治家が国民から強制的に徴収した税金を公共事業によって自分を支持してくれる人にばら撒くことであって、日本の莫大な政府債務はそのために何十年も増加し続けてきた。

だが、コロナ後にインフレになるまでは、借金をどれだけ増やしても問題がないように見えた。また、政府債務をこれほどの規模まで増やし続けられたのは、日本だけの特殊な状況に思える。コロナ禍におけるイギリスでトラス政権がばら撒き政策をしようとした時には、通貨と国債と株価がすべて急落し、トラス氏は辞任に追い込まれた。

何故日本の政府債務は何の問題も引き起こさずにここまで増えることが出来たのか? マクラウド氏は次のように分析している。

それが可能になっているのは、高い貯蓄率のためだ。預金者が新たに円を手に入れると、その多くを預金に回す。それは消費に行かない。

マクラウド氏は、日本政府がこれだけの借金を維持できた理由として、貯蓄率の高さを挙げている。

貯蓄率の高さは、二重の意味で巨額の政府債務を正当化する。1つ目は、そのお金が消費に回らないために、経済における需要が減りインフレになりにくいということだ。

もう1つは、預金はそれを預かっている銀行が国債の購入に使うため、国債が買い支えられ日本国債の金利が下がるということである。

マクラウド氏は次のように続けている。

結果として、日本はあまりに長くこの狂った状況を続けることができ、政府債務はGDPのおよそ230%に達していると計算されている。

政府債務は問題か

さて、問題は、ここまで維持できた政府債務が、これからも維持できるかということだろう。

これまでとこれからで何が違うのか。インフレが起こってしまったということである。インフレが発生し、金利を上げなければならなくなれば、これまでゼロ金利だった国債には多額の利払いが発生し、政府が何もしなくとも借金は指数関数的に増え続けることになる。

それこそが、アメリカでトランプ政権が財政赤字を何とかせざるを得なくなっている理由である。

これまで日本の量的緩和を支持してきた人々は反論するかもしれない。だがマクラウド氏は次のように言っている。

誰もが「これは問題ではない、問題が生じればいつでも紙幣印刷で解決できるから」と言う。

だが待ってもらいたい。今の状況から紙幣印刷で問題を解決する? 出来るとは思えない。

インフレになった状況下で紙幣印刷をすれば、更なるインフレを引き起こし金利を更に上げざるを得なくなってしまう。

日本の場合なら、円安が更に進行し、インフレは更に酷くなるだろう。

日本の危機が世界の危機へ

だから日本の財政は既に詰んでおり、徐々に問題が深刻化してゆくことは避けられない。金融緩和をやりたいと思っている高市政権でさえ、それが安易に出来なくなった現実を認識している。

一番の問題は、金利を上げざるを得なくなっていることである。そしてマクラウド氏によれば、日本の金利上昇は世界市場に波及する可能性があるという。

マクラウド氏は次のように言っている。

日本の問題は他の国の債券市場にも波及することになる。日本の金融機関は米国債を買っており、日本の年金や保険会社は米国債の大きな買い手だ。

だが日本国債の金利が上がれば、米国債の魅力が相対的に減ることになる。

日本の年金基金や金融機関は、米国債を大量に買っている。だが、日本国債がこのまま下落を続け、金利が上がり続けるならば、日本の金融機関は米国債を買わずとも日本国債を買えば十分な金利が得られることになり、米国債が売られ始める。

アメリカは日本の投資家を失うことになる。

また、マクラウド氏は次のように続けている。

また、キャリートレードの問題もある。投資家は金利の低かった円で資金を借り入れて、米国債などのより金利の高い投資先に投資していた。

日本国債の問題が大きくなるにつれ、これらすべてが壊れ始める。

日本は先進国の中でも特別金利が低かったため、日本円で借り入れを行い、その資金をアメリカやヨーロッパに投資するということをやってきた。これをキャリートレードという。

だが、超長期の金利について言えば、今や日本の金利はヨーロッパの金利とそれほど変わらない。日本の金利はそれほどまでに上がってしまった。

日本で金利が上がれば、こうしたトレードは急速に巻き戻ることになり、キャリートレードで買われていた欧米の株式や債券が売られることになるのである。

結論

すべては日本円と日本国債が売られ続けることから始まる。だが、高市政権がそれを止めようとしている気配は感じられない。金融の知識がないから余裕でいられるのである。

一方で、アメリカでもトランプ政権は金融緩和で債務を解決しようとしており、今後のドルの値動きが注目されている。

Bridgewaterのレイ・ダリオ氏は、新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)で日本やアメリカの債務がどのような終わりを迎えるのかについて論じている。

特に日本については1章まるまる取り上げて解説されている。日本語版はないのだが、英語が読める人は是非そちらも参考にしてもらいたい。


How Countries Go Broke