世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)の英語版をついに出版した。
覇権国家の繁栄と衰退
ダリオ氏の新著は、覇権国家アメリカの財政破綻を予想するものである。
ダリオ氏はコロナ後の現金給付やインフレなど、少し前までは誰も想像だにしなかったことをこれまでの著書で的確に予想してきたから、ここの読者にはそれほど過激なものには聞こえないだろうが、多くの人にとってはアメリカが破綻するなど荒唐無稽な話に聞こえるかもしれない。
多くの人にとって、アメリカが破綻するはずないと思う根拠は、アメリカが戦後80年も覇権国家として君臨し続けていることであり、更にはドルが基軸通貨として価値を保ち続けてきたことである。
だが歴史を証拠として提示する人は、歴史が提示するもう1つの証拠を完全に見落としている。アメリカ以前のすべての覇権国家と基軸通貨は例外なく衰退してきたということである。
覇権国家と基軸通貨の衰退
だからダリオ氏は次のように言っている。
それを信じている人は経済の仕組みと歴史の教訓を見落としている。
もっと具体的に言うならば、そういう人々は歴史について調べ、なぜ過去のすべての基軸通貨は基軸通貨ではなくなったのかを理解するべきだ。
これについては、新著よりもダリオ氏の前著である『世界秩序の変化に対処するための原則』で詳しく説明されている。こちらは日本語版がもう出ている。
この前著は大英帝国やオランダ海上帝国などアメリカ以前の覇権国家の繁栄と衰退について解説した本で、アメリカが永遠に覇権国家で居続けると思っている人に都合が悪いのは、この2つの覇権国家がどちらも債務膨張とインフレで衰退していることである。
また、衰退にもプロセスがある。覇権国家となった大国の経済が揺らぐとき、その国はまず金利を下げて経済を持ち上げようとする。だが金利はいずれゼロになり、それ以上下げられなくなる。
すると次に量的緩和が起こる。中央銀行が紙幣印刷で国債を買うことで、国債の金利を更に無理矢理下げようとするのである。
だがそれでも経済が持ち上がらないような状況になれば、その次には現金給付が起こり、インフレが発生する。
アメリカはここまでは行っている。ちなみにダリオ氏やその他の識者によれば、その次に起きるのは資本統制である。
つまり、国債を国民に無理矢理買わせるか、あるいは売らせないようにするということである。ここまで来れば、自由意志で紙幣や国債を持ちたいと思う人はいなくなるだろう。
ここまでは日本語版もある前著『世界秩序の変化に対処するための原則』に載っているので、そちらをお勧めしたい。
延命されたアメリカ経済
実際には、アメリカが基軸通貨ドルによって出来ることは、経済の延命なのである。
どれだけ紙幣を印刷したとしても、基軸通貨には世界中に買い手がいる。それこそが世界的なインフレを引き起こすほどの現金給付を行なってもドルがまだ暴落していない理由である。
一方で日本円はアベノミクス以来ほぼ半分の価値になり、イギリスでは同じことをやろうとしたリズ・トラス元首相がポンドと英国債を暴落させ数週間で辞任した。
ドルだけが同じことをしてもこれまでは無事だった。それがもたらす結果は何か? 他の国よりも長く紙幣印刷を続けられることである。
スタンレー・ドラッケンミラー氏は、それは結局のところ他の国よりも債務問題を大きく育てられるということだと主張していた。
だがそれも限界が来ているのかもしれない。今年4月の株安で、ついに米国株と米国債とドルの同時下落が実現しかけたからである。
結論
どれだけ紙幣印刷をしてもアメリカとドルだけが例外だった。しかしそれは、世界中がドルを買いたがる場合にのみ事実なのである。
だがダリオ氏は次のように述べている。
通貨や国債は富を貯蓄する手段として有用でなければならない。そうでなくなれば、価値が下落し誰も使わなくなる。
そして4月に見たように、それは起こり始めている。世界中の国々がドルから資金を逃している。ドルからゴールドへ資金が流出しているのが、一番の兆候である。
ドルはどうなるのか。結局、アメリカの債務問題、つまり財政赤字がどうなるのかによるだろう。
その予想は新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)に書かれている。日本語版はまだ出ていないが、原文で読める人は原文で読むべきである。

How Countries Go Broke