ネイピア氏、アメリカは米国債下落で資本統制を行うと予想

引き続き、The Solid Ground Newsletterのラッセル・ネイピア氏の、Hidden Forcesによるインタビューである。

今回はアメリカの債務問題で米国債が下落した場合の米国債の買い支えの話である。

アメリカの債務問題と米国債の下落

ここの読者にはお馴染みだが、アメリカの債務問題はかなり厳しい状況に置かれている。コロナ後の金利上昇で米国債の利払いはGDPの4%に届きかけており、財政赤字の半分が借金の利払いという状況に陥っている。

米国政府は国債の利払いのために新規の国債を発行しており、大量に発行された米国債が国債価格を下落させるのではないかという懸念の中、4月の株安の最中に米国債が急落した。

それでトランプ政権は関税を延期した。それで債券市場は一旦落ち着いたが、ネイピア氏は米国債の下落を長期的には避けられないものと見なしている。

リズ・トラス・モーメント

ではこれからどうなるのか。ネイピア氏の予想では、米国債の状況が持続不可能であることを示す何らかの出来事が起きる。

トリガーとなる出来事のうち、もっとも明らかなものは金利の急騰だ。

アメリカではもう既に米国債の利払い費用がかなり高い水準となっている。

そういう出来事は今やリズ・トラス・モーメントと呼ばれている。

金利が急騰すれば、国債の金利上昇は価格下落を意味するので、国債が下落したということである。

あるいは国債の入札が不調になることを予想するファンドマネージャーは多い。いずれにしても国債の買い手が足りなくなるのである。

そしてリズ・トラス・モーメントとは何か。リズ・トラス氏は元イギリスの首相で、コロナ後のインフレが酷かった時期に無謀な財政支出を約束してポンドと英国債と英国株をすべて急落させ、瞬時に退陣に追い込まれた政治家である。

当時のことは以下の記事に纏めている。

少し前まで、インフレ主義者たちによってインフレと国債下落の組み合わせは先進国では起きないということがまことしやかに囁かれていた。だがコロナ後のインフレでそれは実際にイギリスに起こった。

それでも同じことはまさかアメリカには起きないだろうと多くの人が思っていた。そしてそれが今年4月の株安で起こったわけである。

国債急落から資本統制へ

今は一旦収まっているが、また同じことが起きる可能性は高いと筆者も予想している。

国債が下落すれば政府がまず考えるのは中央銀行の紙幣印刷による国債買い入れだが、トラス政権のように自国通貨が急落している状況下では恒常的な紙幣印刷は自殺行為となる。

そうなればどうなるか。紙幣印刷では状況を救えなくなった場合の次の手段についてネイピア氏は次のように述べている。

危機のトリガーを引く何らかの出来事があり、そして資本統制が行われる。資本統制は、一見資本統制には見えない形で行われる。

資産価格を押し上げるための政府の政策は日々進化してきた。低金利政策は紙幣印刷になり、紙幣印刷は現金給付となってインフレを引き起こした。

そして現金給付が何になるのかと言えば、次は資本統制である。

資本統制の具体案

国債が急落している状況下で中央銀行が動けないとなれば、政治家が次に考えるのは国債の売却を禁じることだ。

特に、政府が頭を悩ませるのは外国人による国債売りである。何故ならば、外国人による国債の売りは国債だけでなく通貨の下落にも繋がるからである。

だから政治家はそれを禁止したい。だがそんなことをすればもう誰も新たに国債を買わなくなる。だから歴史上政治家が実際にやってきた手段はそれとは少し違う。

ネイピア氏は次のように説明している。

最初の一手は外国人に国債の売りを禁止するのではなく、国民に買いを強要することだ。外国人に国債の売却を禁じるのは極めて敵対的で非常に危険な措置で、ドルの基軸通貨としての地位を大きく損なってしまうからだ。

政府が一番影響を行使しやすい国内の買い手は銀行である。だから銀行に国債を追加で購入させるのである。

だが元々国債を買っている銀行に更に国債を買わせるためには、銀行に他の何かを売らせなければならない。だからネイピア氏は次のように言っている。

わたしは国民に国債の買いを強要することを資本統制の一種だと考える。何故ならば、代わりに何を売らせるかと言えば、それは常に国外資産だからだ。

そうして国外資産を売らせ、自国の国債を買わせることによって、国債と通貨を表面的には両方救うのである。

だがそれを見た海外投資家や国民は、その国から資産を必死で逃がそうとするだろう。

結論

ネイピア氏は次のように纏めている。

金利が急騰すれば、政府は資金調達が困難になる。民間がお金を借りる時は国債以上の金利を支払わなければならなくなるので、民間でも債務危機が起こる。

そうして銀行などに国債を買い取らせる。それは実質的には海外からの資金引き揚げだ。

そして最終的には、それでも国債を助けられないなら、外国人の国債売却禁止という最後の手段に訴えることになる。

また、今もう既に金価格が急騰しているように、紙幣や国債から資金が流出すればゴールドなどの貴金属に資金が流入する。

それを避けるためにゴールドの禁輸や売買禁止なども行われる可能性が高い。紙幣と国債から人々が逃げられないようにするのである。

だから読者に言えることは、逃げられる内に逃げておくことである。低金利政策が量的緩和になり、量的緩和がもう既に現金給付にはなっているのだから、現金給付が資本統制になるまでにそれほどの年月があるとは思えない。

こうした流れは歴史を理解していなければ理解できない。Bridgewaterのレイ・ダリオ氏が言うように、今生きている人々がまだ経験していない出来事も、歴史上では繰り返しそうなってきたのである。

例えば1929年の世界恐慌のあと、「緩和政策」が米国債下落からの資本統制まで進化した事例があり、ダリオ氏が『巨大債務危機を理解する』において詳しく解説している。

何故そうなると分かるのか? 歴史上、それはいつものことだからだ。


巨大債務危機を理解する