引き続き、The Solid Ground Newsletterのラッセル・ネイピア氏の、Hidden Forcesによるインタビューである。
今回は日本の債務問題とアメリカの債務問題を比較している箇所を紹介したい。
アメリカの債務問題と米国債下落
ネイピア氏はこれまでの記事で、アメリカの債務問題が危機的な状況に達していると指摘していた。
コロナ後の金利上昇で米国債の利払いが膨れ上がり、財政赤字の半分ほどに達しているからである。
それで4月の株安では米国債が急落する事態となった。
一方で、日本も日銀の量的緩和により円相場が長期的に大幅な下落となっており、輸入物価の高騰が国民の消費を圧迫している。
コメの価格高騰は、農水省の実質的な生産減少政策も主な原因だが、トラクターなどの燃料費が上がっていることも原因の1つである。そしてその原因は円安である。
債務問題と対外純資産
日本とアメリカ、どちらの状況が酷いのか。ネイピア氏は次のように語っている。
国家は2つに分けられる。対外純資産がプラスの国と、対外純資産がマイナスの国だ。
対外純資産とは、その国が保有する国外資産から、外国人が保有するその国の資産を差し引いたものである。
それはつまり、その国が外国に対する債権者なのか、あるいは外国に借金している国なのかを示す。
例えばアメリカの対外純資産のチャートは次のようになっている。

物凄い下がり様である。
アメリカの対外純負債
つまり、アメリカは諸外国に対して多額の負債を抱えていることになる。ネイピア氏は次のように述べている。
対外純資産のマイナスが特に大きい国はアメリカだ。誰もがアメリカが世界一だと思うだろうが、金額で見ればそうだが、GDP比で見ればフランスも同じくらい悪いだろう。
これは逆に言えば、世界の国々がアメリカに、つまりドル資産に投資をしてきたことを示している。
諸外国がアメリカに投資をすればするほどアメリカの対外純資産のマイナスは大きくなる。その資金流入は、上のチャートを見れば分かるように2008年のリーマンショック後に特に増大してきたから、リーマンショック後の米国株の大幅上昇はこの資金流入が一因であることが分かる。
だが外国人がアメリカの資産を多く持っているということは、外国人がそれを売ろうとするときに大きな問題になるということである。
対外純負債の逆流
そしてそれは既に起こっている。ウクライナ戦争後にアメリカがドルを使った経済制裁を振りかざしたために、中東諸国やBRICS諸国がドルの使用を次々に止めている。
また、米国債の大量発行の問題から、4月の株安では米国債とドルが同時に急落した。
金融が専門ではない一般の人々は「米国株はもう何十年も上がり続けているからこれからも上がり続ける」という、「となりの山田さんは80歳だからもう80年生きる」理論を健気にも信じているが、数十年の対外純資産の減少こそが米国株を長期的に支えていたのだとしたら、その逆流は長期的に株価に真逆の効果をもたらす。
ジェフリー・ガンドラック氏は以下の記事でまさにそのシナリオを予想している。
対外純資産がプラスの国
だから対外純資産のマイナスが多い国ほど債務危機は深刻であり、政府債務を救済するためにこれまでの緩和政策は低金利から量的緩和、量的緩和から現金給付へと進化してインフレを引き起こしてきたが、ネイピア氏は前回の記事で、現金給付は資本統制に進化すると予想していた。
ネイピア氏は、米国政府が最終的には人々に国債の保有を強要し、売却を禁止する可能性があると指摘している。外国人にとっては米国債を売却できなくなるのは最悪のシナリオで、資金がアメリカから引き出せなくなる。
対外純資産のマイナスが大きいほど、その最悪のシナリオが近い。資金流出の可能性が大きいからである。
だが世界にはその逆の国もある。ネイピア氏は次のように述べている。
対外純資産が飛び抜けて大きくプラスの2つの国がある。ドイツと日本だ。
ドイツの対外純資産はGDP比で77%、日本は63%である。これらの数字はある程度の規模以上の先進国では飛び抜けて大きい。
つまり、ドイツ人と日本人は国外資産を持っているということである。
こうした事実は、国債が危機になるリスクがアメリカよりも少ないことを意味している。少なくとも、外国人が日本国債を大量に売却するリスクを懸念して、売却を禁止しなければならなくなる事態になるリスクは少ないだろう。
また、外国から保有している国債を売却するぞと脅されるリスクも少ない。ネイピア氏はアメリカではそれはあり得ると言っている。
結論
GDP比の政府債務の量で言えば、日本はアメリカよりもよほど酷い。そして何より金利が上がってきた。超長期債の金利は3%ほどに達しており、アメリカのように国債の利払いが財政赤字を圧迫する状況が近づいている。
しかしそれでも資本統制のリスクは、日本よりアメリカの方が高いと言えるだろう。「日本は債権国で資産があるから政府債務は問題ない、国民同士で貸し借りしているだけだ」と長年主張してきた麻生太郎氏は正しい。だが何故国民が資産を持っていれば政府債務に問題がないかと言えば、政府債務は増税によって国民の資産を没収することで解決されるからである。
だからアメリカのような形の債務危機は来ないかもしれない。だが日本国債が米国債よりマシな状況だからといって、日本人がアメリカ人よりもマシな状況かどうかは別の話である。
カネがあるから取られる日本人と、カネがないから取りようがないアメリカ人、どちらが幸せだろうか。
先進国は何処も深刻な状況である。その後どうなるかは、レイ・ダリオ氏の『世界秩序の変化に対処するための原則』で予想されている。

世界秩序の変化に対処するための原則