ドラッケンミラー氏: アメリカは基軸通貨ドルのお陰で致命傷を食らうまで緩和を続けられる

引き続き、ジョージ・ソロス氏のクォンタムファンドを長年運用したことで有名なスタンレー・ドラッケンミラー氏のSohn Conferenceにおけるインタビューである。

今回は基軸通貨ドルと「基軸通貨の呪い」について語っている部分を紹介したい。

資源の呪い

努力もしていないのに裕福だということは良いことでもあり、悪いことでもある。ドラッケンミラー氏は原油などの資源を持っている資源国を例に挙げている。

多くの人が資源の呪いという言葉を聞いたことがあるかもしれない。地面に原油や金属資源が埋まっている国では、人々は一生懸命働く必要がなく、イノベーションも生まれない。だから経済もそれほど発展せず劇的に成長もせず正しい方向にも行かない。

資源の呪いを説明するには、その真逆の例であるイスラエルを挙げるのが良いだろう。イスラエルにはまったく資源がないにもかかわらず、大量の資源を持っている他の中東の国々の経済を大きく上回っている。

これは裕福な国に生まれた人、そして裕福な家庭に生まれた人の問題にも似ている。出典は忘れたが、世界屈指のファンドマネージャー、ジョージ・ソロス氏の息子が次のようにぼやいていた。

世界有数の富豪の息子が、ホロコーストを生き延びてアメリカに渡りファンドマネージャーとして成り上がった人物ほどにハングリーにやれるわけがない。

裕福な親の呪いとでも言うべきものだろうか。

基軸通貨の呪い

そしてドラッケンミラー氏曰く、同じような呪いがもう1つある。自国通貨が世界中で使われる基軸通貨であることである。

ドラッケンミラー氏は次のように説明している。

基軸通貨であることは大きな特権だ。だがその特権は、その国がそうすることを選ぶならば、長期的なことを考えない非常に近視眼的な経済政策を許してしまう。

通常、大規模な金融緩和を行えば通貨は下落する。だがドルは基軸通貨であり、世界中の貿易がドルで行われ、世界中の中央銀行がドルで外貨準備を持っている間は、それを補うドル買い圧力が生まれ、ドルがなかなか下がらない。

例えばアメリカがコロナ後にやった、世界的なインフレをもたらした大規模な現金給付を、他の国がやろうとすればどうなるか。

それをやろうとした国が実際に存在する。イギリスである。

イギリスでは当時首相だったトラス氏が2年間でGDPの10%におよぶばら撒き政策を発表したとき、イギリスの通貨ポンドと英国債が暴落して中央銀行が買い支えを余儀なくされた。トラス氏は結局辞任に追い込まれ、現在のスナク首相へと引き継がれている。

ドラッケンミラー氏は次のように述べている。

イギリスが向こう見ずな財政刺激をやろうとしたとき、金融市場は即座に彼らを叱り飛ばしてイギリスにもっとまともな政権を組織させた。

だがアメリカはそうした馬鹿げたばら撒きを実際にやっている。コロナ後の現金給付である。

しかしドルは下がらなかった。少なくともまだ下がっていない。ドラッケンミラー氏は次のように述べている。

われわれアメリカにはこの市場の監視機能がない。放漫な経済政策のあと、2021年と2022年にドルは上がった。他の国だったら市場がそれを拒絶し、政策の撤回に追い込まれているだろう。

だがドルが基軸通貨であることがドルを支えている。ドラッケンミラー氏はこう続けている。

だが基軸通貨のお陰で、アメリカは死んで土に還るまで穴を彫り続け、自分の墓を完成させることができる。

それが良いのか悪いのか、アメリカ国民は考えるべきだろう。少なくともドルが基軸通貨から滑り落ちる瞬間は緩やかにだが近づいている。

結論

これは様々な別の問題にも言えることである。例えば先進国は経済の規模が大きいため負債を増やしてもすぐには破綻しない。あるいは紙幣印刷のお陰で永遠に破綻しないが、代わりに何十年もの時間をかけて増税と自国通貨の下落がその国を蝕んでゆくのである。

ドラッケンミラー氏は不吉な未来を予想している。

それが出来る間は良いし楽しいだろう。だがその特権でどんどん大きな穴を掘ってゆくと、いつか結果が伴う。そして皮肉なことに十分に掘ってしまった後には元々の特権は多かれ少なかれ失われている。そして結果だけが残る。

日本はいまだにインフレ抑制のためにインフレ政策を行なっている。この自民党の会心のジョークはまだ誰にも理解されていないようだ。

筆者はもはや人々がこうした放火政策の馬鹿さ加減を理解するとは考えていない。馬鹿が自分の愚かさで滅んでゆくのを止められるだろうか。

投資家として出来ることは、インフレや年金など、馬鹿の生んだ結果から身を守ることを考えるだけだろう。