ドラッケンミラー氏: ハードランディングで米国経済は復活する

引き続き、ジョージ・ソロス氏のクォンタムファンドを長年運用したことで有名なスタンレー・ドラッケンミラー氏のSohn Conferenceにおけるインタビューである。

ハードランディング

アメリカではインフレ抑制のためのFed(連邦準備制度)の金融引き締めで、経済のハードランディングが予想されている。

だが資本主義者であるドラッケンミラー氏はハードランディングを待ち望んでいる。何故か? 彼は次のように述べている。

ハードランディングになれば、1年から3年ほど経済は酷いことになるだろうが、しかしやっと資本主義が本来の仕事をし、経済は生産的な破壊を行うことが出来る。

生産的な破壊とは何かと言えば、リーマンショック以後のゼロ金利政策(もっと言えば1980年以後の低金利政策)で無限に増殖したゾンビ企業の掃除である。

金融緩和とゾンビ企業

ゾンビ企業とは例えばシリコンバレー銀行から預金を引き出さざるを得なかったスタートアップ企業である。シリコンバレーには永遠に利益を出さないベンチャーが、緩和政策によって延命され続けていた。

金融緩和は長期的な経済成長率減速に繋がる。本来、人々の望むものを作らず、利益を出すことの出来ない企業は淘汰されてゆく。だが金融緩和はそれを延命する。

公共事業も同じことだ。東京の真ん中に居座っている巨大な便器のように、誰も使わないものが多く打ち立てられ、その年のGDPは押し上げるが国民の幸福には何の貢献もせず、そして大きな借金だけが残り、後で国民が増税によって支払うことになる。GDPを数字上押し上げることが経済政策の目的だろうか? この便器が汚職以外の何に貢献したのか?

出典:産経新聞

1970年代の物価高騰時代の後、40年間の緩和政策でこういうものが積み上がった。便器ばかりである。要らないものが積み上げられるのだから、デフレにもなる。誰も買わないからである。

ゾンビ企業が倒産しないのでその年のGDPのマイナスは避けられるが、誰も欲しないものばかりが作られるので本質的な経済生産性は下がり、慢性的な成長率低下に陥り、政府や国民は更に借金に頼りだす。

そしてこういう人々はコロナショックのような時に現金給付のような度を超えたばら撒きを行うことが運命づけられている。それで物価高騰が起こったのである。緩和によってインフレになることは運命である。

永遠に続かないばら撒き政策

だがドラッケンミラー氏によれば、「幸いにも」こうした状況は終わろうとしている。何故ならば、インフレが起こってしまった以上、緩和政策の限界が近づいているからである。

これからハードランディングが起こったとしても、その時にインフレ率が下がっている保証はない。これまではデフレだったから短期的には問題なく緩和で経済を数字上救うことが出来たが、インフレの状況下で緩和をすれば物価は青天井に上がってゆく。

インフレ政策を何も考えずに信奉していた人々が、信奉していたインフレに頭を殴られたことによって状況が変わるかもしれない。

馬鹿は痛い目にあうまで状況を理解しない。そしてこれはマクロ経済学における最重要の経済原理である。筆者はこれを冗談ではなく本気で言っている。この原理は経済を予想する鍵である。

状況は変わるかもしれない。そのためには、アメリカでコロナ後に行われた現金給付や、働くよりも儲かる失業保険のようなばら撒き政策で、働かなくてもお金が降ってくると考えている人々の思考が変わる必要がある。

厳密には彼らの思考は変わらないかもしれない。ただ、降って来るお金に価値がなくなり始めて彼らが焦り始めるだけである。

ドラッケンミラー氏は次のように続ける。

    もしそれが出来れば、チャンスはある。働くのを止めた人々は働くようになり、良い価値観が戻ってくる。Z世代でさえ働かなければならないということを自覚するかもしれない。

    ハードランディングでこうしたすべてのことを綺麗にできる。アメリカを200年間偉大な国にし続けてきたものがもしかしたら復活するかもしれない。

    1970年代の物価高騰

    実際、アメリカは過去に大掃除を1回やっている。

    1970年代に今と同じようにばら撒き政策で物価が高騰した。それは10年続いたが、1979年にFedの議長に就任したポール・ボルカー氏が金融引き締め政策によってインフレを終わらせた。

    ドラッケンミラー氏は次のように説明している。

    1982年、ボルカー氏は意図的に景気後退をもたらした。彼は金利を20%まで上げ、1982年に経済は酷い景気後退に陥った。

    失業率は大きく上がったが、代わりに何が起こったか? レーガン大統領は1984年の選挙で49の州で勝利した。そしてそこから20年から30年間アメリカ経済は繁栄した。

    痛みを受け入れ、行動を反省したからだ。

    当時のことはボルカー氏自身が以下の記事で説明してくれている。

    アメリカは同じことをもう一度繰り返すことが出来るだろうか。ドラッケンミラー氏は次のように語る。

    アメリカがもう駄目だとは決して思わない。もう一度同じことを試すことができることを願っている。

    一方で、直近20年から30年でやってきたことをもう一度繰り返す道もある。金融緩和をどんどん行ない、負債を積み上げ、永遠の停滞に安住する。日本がやってきたことだ。

    もしアメリカが方向転換することが出来れば、経済は長期的には復活するが、これまで40年間緩和政策によって押し上げられてきた株式は酷いパフォーマンスになるだろう。それがドラッケンミラー氏の予想である。

    だがインフレ下でインフレ政策を繰り返す道もある。どちらの道に進むかを決めるのは、マクロ経済学的には、馬鹿が十分に頭を叩かれたかどうかである。

    筆者の眼には彼らはまだ頭を叩かれ足りないように見えるのだが、読者はどう思うだろうか。