世界最大のヘッジファンド: シリコンバレー銀行破綻はドミノ倒しのように伝染する

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が、自身のブログにおいてシリコンバレー銀行の破綻について不吉なことを語っているので紹介したい。

シリコンバレー銀行の破綻

主にアメリカのシリコンバレーで営業していたシリコンバレー銀行が破綻した。アメリカの歴史上第2位の規模の銀行破綻ということで話題になっている。

この銀行が何故、どのように破綻したのかについては、筆者が説明した記事を参照してほしい。

ダリオ氏は主にこの破綻の意味とその後の経済全体への影響について語っている。

まず、ダリオ氏は筆者と同じくこのイベントを起こって当然のものと見なしているようだ。彼は次のように述べている。

これは通常7年(プラスマイナス3年程度)続く短期の債務サイクルにおける非常に典型的なバブル崩壊時に起こる非常に典型的なイベントだ。

彼の言う7年ほどの短期の債務サイクルとは何か。中央銀行や政府が緩和を行ない、最初にはそれで経済が活性化されたように見えるが、それで調子に乗った政府と有権者はますます緩和に入れ込み、そして経済が過熱し始める。そして政府と中央銀行は過熱を冷却するために引き締めを強いられ、バブルは崩壊する。

それまでに大体7年ほどかかる。2000年のドットコムバブル崩壊のあとに始まった低金利政策は、アメリカの不動産バブルを経て2008年のリーマンショックで崩壊した。その後に始まった量的緩和バブルは2018年の金融引き締めによる世界同時株安で終了した。

そして2020年に始まったコロナ緩和は、緩和の規模がこれまでのものより大きい分、派手に崩壊することになるだろう。

繰り返されるバブル崩壊

そもそも緩和を止めておけば良いのに、政府と有権者は馬鹿げたバブルの生成と崩壊を繰り返し、その度に不必要に資産を失ってゆく。

インフレの人為的な醸成は、インフレを抑える段階において本来必要ではなかったはずのコストを経済にもたらす。以下の記事を熟読してみると良い。

だがバブルは繰り返す。人間の知性は7年では変わらないからである。しかしサイクルは毎回まったく同じわけではない。ダリオ氏は次のように説明している。

毎回のサイクルでバブルになるセクターは異なっている。例えば2008年のリーマンショックではバブルは住宅用不動産に偏っていた。

そして今はキャッシュフローがマイナスになっているようなベンチャー企業や非上場企業、そして商用不動産会社などの、高金利と金融引き締めが受け入れられないような企業だ。しかし自己強化的な債務縮小トレンドは同じである。

以下の記事で説明したように、シリコンバレー銀行の破綻は顧客であるシリコンバレーのスタートアップたちが金融引き締めで金欠になったことが原因である。

シリコンバレーにはユーザはいるが収益は上がっていない自転車操業的な企業が大量にある。中央銀行が経済から資金を吸い上げるとき、そういう企業が真っ先に資金難に陥る。

そしてその窮状はその企業の取引先に波及する。シリコンバレー銀行はそうしたスタートアップが金に困り預金を引き出したことで潰れた。

ダリオ氏は次のように述べている。

この事態へのわたしの理解と、これまでの出来事に基づけば、今回のシリコンバレー銀行の破綻は炭鉱のカナリアであり、この初期のイベントはドミノ倒しになってベンチャー業界とその外にまで波紋を広げるだろう。

波及する金融引き締め

このように金融引き締めは波及してゆく。潰れた企業の取引先がまた潰れる。

そしてそれは何処まで続くのか? ダリオ氏は次のように予想する。

金融引き締めが信用の伸びを抑え、インフレは自己強化的な負債と信用の縮小に移行し、それはドミノ倒しのように伝染していって中央銀行が緩和に転じるまで続く。

それは去年から筆者が予想していたシナリオである。

そして今回のシリコンバレー銀行の破綻によって市場はそれを織り込み始めた。

すべて予想通りである。そしてまだ何も終わっていない。まだ始まってさえいない。

結論

もう何年も言い続けているが、金融引き締めを舐めてはならない。パウエル議長が前回金融引き締めを行なった2018年にも筆者は同じことを言ったのだが、今回も誰も学んでいないようだ。

今回の金融引き締めは2018年の2倍なのである。

そもそも張本人のパウエル議長自身が金融引き締めの威力を再び舐めているのだから、もうどうしようもない。政府や中央銀行は紙幣印刷が経済に何を及ぼすのかも理解していなければ、引き締めを行う時にも結果がどうなるのかを理解していない。

現金給付も金融引き締めも同じである。子供に核兵器のボタンを預けてはならない。政治家に経済を任せているとはそういうことなのだが、いまだに誰も理解しないようだ。