世界最大のヘッジファンド: 政府が金融危機から守ってくれると思うな

世界最大のヘッジファンドBridgewaterを運用するレイ・ダリオ氏がLinkedInのブログを引き続き更新している。

新型コロナウィルスの世界的流行で世界中の中央銀行が紙幣を印刷し国債を買い入れ、政府は国民に現金を配り始めているが、ダリオ氏は政府を信頼してはならないと主張する。

貨幣を印刷する特権

ダリオ氏は次のように始めている。

歴史を見れば明らかだが、政府が経済的に国民を守ってくれると信頼してはならない。実際は逆であり、ほとんどの政府はあなたが同じ立場だったらそうするであろう同じ理由で、貨幣と債務の創造者かつ使用者としての特権を乱用するだろう。それは政治家は国家の長い生涯の一部分だけを担当し、その時の状況に応じてやりたいことをやるからであり、誰も最後まで責任を持つ人間がいないからである。

政府は現在債務を増やすことによって国民に現金を配ろうとしている。しかし政府債務はもう何十年もの間増え続けてきた。ダリオ氏はこの現象、つまり債務の膨張サイクルの初期の頃の話から始める。

債務の膨張サイクルの初期の段階では政府はまだ信頼されており、誰よりも資金を必要としていると思われているため、政府は誰よりも大きな借り手である。

サイクルが進んで後任の指導者たちが債務が膨張した政府を運営することになるときには、政治家や中央銀行家たちはより限られた景気刺激策で債務を返済してゆく難題に取り組まなければならず、更に悪いことに政府は破綻すれば経済全体を傷つけるような債務者を救済しなければならないことになる(訳注:2008年の銀行救済など)。

結果として政府は他のどのような個人や企業よりも大きな負債を作り上げることになる。

この文章を読んで思うのは、政府が債務を膨張させない段階など存在するのかということである。ダリオ氏はこう続ける。

言い換えれば、基本的にすべての状況において政府は債務の膨張に貢献し、債務バブルが弾ける時には紙幣を印刷しその価値を薄めることで対応する。

しかし債務を増やし紙幣を印刷することですべての問題が解決し、しかも何の問題も起こらないならばそれで良いのではないか? その結末はどうなるのだろうか。ダリオ氏は次のように続ける。

政府が大量の紙幣を刷り債券を買い入れることで貨幣と債務の両方が膨張するとき、貨幣と債券の価値は薄まってゆき、それは債務者の負担を減らすと同時に債権者にとっては実質的な税金となるだろう。貨幣と債券の保有者がそれに気づいたとき、彼らはそれを売り始める。

彼らは同時に資産をゴールドや一部の株式、債務問題の少ない別の国などに移そうとするだろう。

この部分は筆者のユーロ下落予想(そしてスイスフラン買い)の本質が述べられている。もはやヨーロッパは自国通貨を毀損せずに成長を維持することができなくなっているからである。

また、ゴールドへの資産逃避は既に起きている。以下は金相場のチャートである。

こうして貨幣の価値が薄まってゆく。ダリオ氏が年始から「現金はゴミだ」と言い続けている理由がここにある。

そしてダリオ氏の話はここで終わらない。現金がゴミになった後の話まで今回は話している。

貨幣の価値減少が激しくなり債務のデフォルトや減価が横行するようになると、政府はやむを得ず金本位制のような何らかの保証ある通貨体制に戻ることを考え始める。そうすることで人々の通貨への信頼は戻り、人々はその通貨で再び資産を貯蔵し借金をやり取りするようになる。

これは現在われわれが財布に入れている通貨が完全にゴミになった後に新しい通貨が作られるという話である。

結論

ダリオ氏はこの状況について次のように感想を述べている。

これは望ましくない状況だが、何故そうなってしまうかは理解できる。貨幣を作り出してそれをばらまくことによって他人を幸せにできるとき、そうしたいという欲求に抗うことは容易ではない。

ばらまけば自分にも金銭的利益が返ってくる時には尚更だろう。しかしヘリコプターマネーを歓迎する善良な市民が気づいていないのは、それは実際には自分の財布から出ているということである。毎年数十万、数百万もの税金を取り上げてもそこから10万円返すだけで喜ぶ人々を喜ばせることは非常に容易である。彼らは容易に詐欺に遭うだろう。

これは古典的な金融行動である。歴史を通して政治家は自分の任期に返済期限の来ない負債を作り上げ、後のことは後任の人々に任せるのである。

個人的にはヨーロッパを「現金はゴミ」現象の先駆者であると見ている。イタリアなどの国の経済成長は既に債務で支えきれなくなっており、債務を増やし量的緩和を行なってもGDPが落ちるのであれば、もうGDPは落ちるしかない。

そして日本人が考えなければならないのは、日銀が現在の政策を続けると日本もいずれイタリアのようになるということである。

これは1980年代から40年間金利を下げ続けた付けを払うときがいよいよ来ているということである。

最近よく感じるのは、われわれは1980年から2020年までをバブルにするために2020年から2060年を犠牲にしたということである。そしてそれを引き起こした低金利・量的緩和政策は老人よりも若者に支持されているという。一般化して若者が常に愚かだとは言いたくないが、量的緩和については事実のようである。そして何事においても愚かさの付けだけは他人が払ってくれることはないのである。