Von Greyerzのエゴン・フォン・グライアーツ氏が、ここ2年ほど上がり続けているゴールドの長期的見通しについて自社配信動画で語っている。
金価格の上昇
日本では、多くの投資家は米国株に目を向けているのかもしれないが、ここのところ米国株よりも遥かに大きく上がっている資産がある。ゴールドである。
金価格はここ2年で50%以上上がった。コロナ前からは2倍以上になった。
理由は何だろうか? 戦争が増えていることが安全資産と言われるゴールドへの資金流入に繋がっているのだと言う人も居るかもしれないが、フォン・グライアーツ氏は次のように言っている。
金相場はイラン攻撃やウクライナ戦争のような、金融市場の短期的なイベントによって上昇しているわけではない。
ここ10日ほどでイランに多くの爆弾が落とされたが、金価格は上がっていない。むしろ少し下がった。
戦争は恐らく金相場に影響を与えているだろう。だが、アメリカがイランを攻撃するかどうかとか、イランが反撃するかどうかとか、そういう短期的な動向を反映してゴールドは上がっているわけではない。
アメリカが戦争に関わる姿を見て、他の国々がドルの保有を減らそうとしているという長期トレンドはあるだろう。ドルを持っていれば、アメリカの都合で経済制裁を受けかねないからである。そこまでしてドルを保有する理由が、ほとんどの国にあるだろうか。
だが、その長期トレンドはイランやウクライナなどの個々のイベントの動向によって変わるものではない。それは、スコット・ベッセント財務長官が言うように、むしろアメリカの財政赤字の問題とリンクしている長期トレンドなのである。
中央銀行とゴールド
だが金価格の上昇にはもっと大きな理由がある。フォン・グライアーツ氏は次のように述べている。
ゴールドが上昇している理由は、中央銀行や、消費者や企業の負債を増加させている他の銀行によって、紙幣の価値が破壊されているからだ。
ゴールドは終末論者のための投資ではない。中央銀行と政府が負債を増やし続けることによって紙幣の価値を下落させることに対し、自分の資産を守るための投資だ。
歴史上、あらゆる通貨は中央銀行によって価値を下落させられてきた。それは金貨や銀貨のような兌換通貨であろうが、今の紙幣のような不換通貨であろうが、同じことである。前者であれば政府は貴金属の含有量を減らし、後者であれば大量に印刷する。それが歴史上ほぼ例外のない事実なのである。
だからフォン・グライアーツ氏は、ドルや円などの紙幣ではなく、ゴールドで資産を蓄えることを勧めてきた。フォン・グライアーツ氏は次のように言っている。
2002年、われわれは顧客に流動資産を最大50%までゴールドにすべきだと助言した。長期保有で、トレード目的ではない。
ゴールドは当時、300ドル程度で、誰もゴールドに興味を持っていなかった。ゴールドは当時、20年も下落していて、普通の投資家は誰も興味を持たなかった。
だが誰もがその資産を嫌っていて、売られすぎの状態の時こそその資産を買うべきなのだ。
何という長い投資期間だろう。しかしフォン・グライアーツ氏の判断は正しかった。金価格は次のように推移している。

金価格の上昇とドルの下落
だが何故ゴールドはこれほど長期に渡って上がり続けているのか。フォン・グライアーツ氏によれば、ゴールドが上がり続けていると言うのは語弊がある。
フォン・グライアーツ氏は次のように言っている。
だが前にも言ったように、ゴールドの価値が上がったわけではない。単にドルや他の通貨の価値が下がっているだけだ。
上記のように、通貨は長期的には政府によって価値を減らされてゆく。
上のチャートはゴールドの価値をドルで計ったものであり、そのチャートは上がり続けているが、逆に言えばそれだけドルの価値が下がっているということである。
つまり、ドル建て金価格の逆数を取ってチャートを逆さにすれば、ドルの価値をゴールドで計ったチャートが出来上がるのであり、それは長期的に物凄い勢いで下落しているのである。
紙幣の長期的な価値下落
中央銀行が自由にドル紙幣を印刷してドルの価値が下がらないと思っただろうか。だが日本の人々にはドルは上がっているように見えるだろう。それは単に、実際には下がっているドルよりも遥かに速いスピードで、日本円が暴落しているというだけのことである。
だから円でドルの価値を見れば上がっているように見える。
だからフォン・グライアーツ氏は紙幣でものの価値を計ることなど忘れてしまえと言っている。フォン・グライアーツ氏は次のように述べている。
通貨を基準に計ったゴールドの価値は重要ではない。紙幣の価値は下がり続けるからだ。何でもいいが、マクドナルドのハンバーガーやチキンがどれだけ買えるかの方が重要だ。
1971年からこれまでのところ99%も価値を失い、最終的には完全に価値を失うドル紙幣で計算した価値に意味はない。
結論
永遠に上がる資産などない。だがある意味ではゴールドは例外かもしれない。何故ならば、ゴールドが永遠に上昇するのではなく、紙幣の価値が永遠に下落するからである。
世界中の人々が、長期的に価値が下落すると分かっている紙幣で資産を貯蓄している。それがどれだけ馬鹿げたことか分かるだろうか。
では人々はどうすれば良いのか。フォン・グライアーツ氏は、紙幣が歴史的に常に価値を減らされてきたように、ゴールドが歴史的にどうなってきたかを次のように述べている。
ゴールドは歴史を生き抜いた唯一の通貨だ。そしてこれからも同じようになるだろう。
何故ならば、ゴールドの価値を政府が勝手に減らすことは出来ないからである。
厳密に言えば、ゴールドにも長期的な波はある。だが現在の長期の上げ相場がいつまで続くのかについては、前回の記事で書いておいた。
だが、歴史的にどういう状況でゴールドは長期的に買いであり、どういう状況でそうではないのかについては、Bridgewaterのレイ・ダリオ氏の『世界秩序の変化に対処するための原則』における歴史研究を読んでもらいたい。ゴールドを買うべき長期のトレンドがいつからいつまでなのかが分かるだろう。