レイ・ダリオ氏、投資のやり方についての新たな本の執筆を発表

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が、自身のブログでBridgewaterを後継者に引き渡した喜びを語るとともに、新たな本の執筆を発表している。

ダリオ氏の引退

ダリオ氏は最近、自分が創業したBridgewaterの株式を全売却した。ダリオ氏の引退は何年か前から始まっていたが、取締役からも身を引いた今、ダリオ氏は法的にはBridgewaterを経営する権限をすべて放棄したことになる。

新たな経営陣は、かつてダリオ氏が自分のインタビューを代わりに任せた学生インターンだったグレッグ・ジェンセン氏など、新たな世代の人々によって構成されている。

ダリオ氏はこの引退についての感想をブログにおいて次のように語っている。

とてもわくわくしている。ラグビー仲間の1人とともにBridgewaterをマンションの1室で創業してから、およそ1,500人を雇用する世界最大のヘッジファンドになり、どの他のヘッジファンドよりも多くのお金を顧客のために稼ぐようになるまでの素晴らしい旅路のことは、すべての瞬間をいきいきと思い出せる。

だが、実際にはダリオ氏と新たな経営陣との間柄は、ダリオ氏が表向きに言っているほど順風満帆なものではなかった。

ダリオ氏抜きのBridgewater

そのことは、ダリオ氏の次の言葉に多少ばかり表れているかもしれない。

そして7月1日、Bridgewaterを次の世代の人々に受け継いでもらうための最後のステップが完了した。彼らがこの会社を次の50年間とても素晴らしいものにしてくれると心から信じている。何という旅だろう! とても喜ばしい!

何よりも、Bridgewaterがわたし抜きで無事にやっていけるというのが素晴らしい。わたしの元で無事にやっていけているよりも何倍もいい。

「自分抜き」のBridgewaterと「自分あり」のBridgewaterは別物になる。つまり、ダリオ氏と新経営陣は考え方が同じではないということである。

天才とその後継者たち

ダリオ氏と新経営陣は、経営の方針についてこれまで何度もぶつかっていた。ダリオ氏は前から世代交代を準備していたが、新経営陣主導の経営が始まってBridgewaterのパフォーマンスが悪化した時には、ダリオ氏は自分のコントロールする新たなファンドを会社内に設立しようとしたが、ダリオ氏の影響力が増すとして新経営陣に却下された。

その一方で、新経営陣はダリオ氏からBridgewaterの株式を買い取ることを提案し、ダリオ氏に引退を促していた。

ダリオ氏は、仕事や経営について書いた著書『PRINCIPLES 人生と仕事の原則』で、自分に対する社員の不満を自ら公開している。ダリオ氏は新経営陣たちが自分に対して送ってきた手紙をこの本の中で次のように引用している。

無能に感じる、必要とされていない、屈辱的な思いをする、軽んじられたと思う、抑圧された、その他何にせよ嫌な気分になる。レイは社員にときどきこういう思いをさせる。

それは、レイがストレスにさらされているときに起こる可能性が高い。こういうとき、彼の言葉や行動が、彼に対する反感を生み、長く尾を引く。このために、社員はやる気になるよりもやる気を失ってしまう。

この手紙をわざわざ自著で公開するダリオ氏もなかなかだが、明らかに、社員が何か意見を述べ、ダリオ氏がそれを評価しなかった場合にダリオ氏がどういう反応を示したかをこの手紙は示している。

ソロス氏とドラッケンミラー氏の場合

これを読んで思い出したのは、ジョージ・ソロス氏とその部下だったスタンレー・ドラッケンミラー氏のケースである。

ドラッケンミラー氏は、『新マーケットの魔術師』におけるインタビューの中で、ソロス氏の元で働くことの難しさについて次のように語っている。

事件は、1989年の8月初めに起きました。私の債券のポジションを、ソロスが決済してしまったのです。それ以前に、彼がそんなことをしたことはありませんでした。さらに悪いことに、私はその取引に本当に強い確信を持っていたのです。

言うまでもなく、このことで私は非常に気分を害しました。そのとき、われわれは初めて本音と本音で話し合いました。


新マーケットの魔術師

結論

他より飛び抜けて有能な人間は他人の意見を信じることに困難を感じる。その「他人」がドラッケンミラー氏のような別の天才である場合にもそうなのだから、ダリオ氏の場合はよほどだろう。Bridgewaterの新経営陣は、ドラッケンミラー氏ほどの才能には見えない。

新生Bridgewaterはダリオ氏抜きの旅路を始めてすぐに、ダリオ氏が割高だとみなす米国ハイテク株を軒並み買い増し、ダリオ氏が好んでいた中国株をポートフォリオから外している。

一方のダリオ氏は、Bridgewaterから手を引いた後の人生について次のように述べている。

わたしはこの状況に満足している。わくわくする好きなことに時間を集中できる自由を手にしているからだ。特に好きなのは、他の人に役に立つだろう自分の知識、特に自分を助けてくれた自分の行動原則を広めることだ。

投資のゲームも好きだ。家族や友達と過ごす時間も増える。(趣味の)海洋探査にも乗り出せるだろう。

更に、新著を発表したばかりのダリオ氏だが、既に新たな本の執筆に取り掛かっているらしい。ダリオ氏は次のように述べている。

もし投資と経済に関するわたしの行動の原則を知りたければ、わたしの次の本はそれに関するものだ。

ダリオ氏の次の本が楽しみである。そしてダリオ氏なしのBridgewaterはどうなるだろうか。ダリオ氏の『PRINCIPLES 人生と仕事の原則』にはBridgewaterに関する他のエピソードも書かれているので、興味のある人は読んでみると良いだろう。


PRINCIPLES 人生と仕事の原則