引き続き、世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏の、Modern Wisdomによるインタビューである。
今回は、政府の債務と赤字が結局どういう結果に繋がるのかについて語っている部分を紹介したい。
アメリカの財政赤字
コロナ後の金利上昇で、米国債の利払いはいまやアメリカの財政赤字の半分にまで達している。ここでは何度も取り上げているが、借金の利払いは新たな借金で支払われるため、財政赤字を減らさなければ米国債の発行量は指数関数的に増えてゆくことになる。
だが政治家は赤字を減らしたがらない。アメリカだけでなく、日本でもそうだろう。増税とばら撒きを行ないたがる自民党以外に減税を行おうとする国民民主党などの政党が力を持ち始めたが、財政赤字を減らそうとする政党は出てきていない。
アメリカでも状況は同じである。ダリオ氏はワシントンDCまで政治家に赤字削減を直談判しに行った時のことを次のように話している。
政治家たちの答えはこうだ。わたしたちは増税をしないか、政府支出を減らさないか、どちらかを約束することを政治的に、あるいは党のために強いられているということを分かってほしい、だそうだ。
アメリカの政治家たちは、政府の赤字を削減すると選挙に落ちると言っている。それでダリオ氏はアメリカの債務問題が通常の方法で解決される希望をほぼ捨ててしまったのである。
アメリカの債務問題がどう解決されるか
ダリオ氏の諦めは日々強くなっているようだ。支出も減らさなければ、増税もしない。政治家もアメリカ国民もそれを望んでいるという現状に、ダリオ氏は笑いながら次のように言っている。
オーケー。増税をせず、政府支出も一切減らさないことを約束するなら、支出の7兆ドルから税収の5兆ドルを引いた2兆ドル分の国債を発行しなければならないということだ。
OK、アメリカが何処に行くかは明らかだ。すべては政治なのだ。
指数関数的に増加してゆく米国債の発行量に対し買い手が同じように増えないならば、米国債の需要と供給はどこかの時点で破綻し、米国債は下落してゆく。
日本でもまったく同じことである。そもそも日本の長期国債はもう数年下落が止まっていないが、誰も気にしていない。
国債が下落するとき
国債が買い手不足に陥るとき、最終的に政府が取るであろう手段は1つしかない。紙幣印刷で中央銀行に国債を買わせるのである。
だからダリオ氏はドルの価値下落に賭けろと言っている。
この国債の利払い問題は、確かに長期的トレンドであり、明日か来週に米国債が急落するとダリオ氏は言っているのではない。
だが奇妙なことに、投資界隈で債務問題を軽視している人は、その多くが米国株に長期投資している人である。
彼らは筆者やダリオ氏のように、次の大きな株価下落をそのまま食らうことのないように、米国株が危うくなるタイミングを毎日リサーチしながら米国債の下落が危険水域に入ることを警戒している中期的な投資家ではない。筆者の米国株の相場観は以下の記事で解説している。
むしろ彼らは、公には米国株が大きく下落しても持ち越すつもりだと表明している長期投資家である。
だとすれば、この長期的な米国債の動向の話は筆者やダリオ氏よりもむしろ彼らが気にしなければならないのではないか。歴史上、米国債が下落した場合の米国株のパフォーマンスは酷いものだからである。
結論
米国債の長期的な先行きに明らかな問題がありながら、何故彼らはのんきに構えているのか。
その理由は1つであり、今のところ大丈夫だからである。彼らが動かない理由はその他にない。去年と今年大丈夫だったから5年後も10年後も大丈夫というわけだ。ダリオ氏はこういう考え方を徐々に茹でられるカエルと同じだと皮肉っている。
そしてこういう人々は自分に問題が生じてから動き出す。だがそれは大きく下落してから売るということである。今年4月のような20%もの下落を乗り越えた投資家は勇敢である。彼らは50%以上下落するまで、決して売らないだろう。
それがバブルにおいていつも起きることである。ダリオ氏は、今の状態がリーマンショック前と同じだと指摘している。
これからどうなるのか。ダリオ氏は新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)に、ドルが暴落してアメリカが破綻するまでの「長期的」道筋を詳しく説明してくれている。「長期的」道筋が自分と関係あると考える投資家なら、その内容は価値のあるものになるだろう。
日本語版は出ていないが、英語を読める人は原文で読むべきである。日本語版が出る頃には、恐らくすべて終わっているかもしれない。

How Countries Go Broke