The Solid Ground Newsletterのラッセル・ネイピア氏が、自身の運営するLibrary of Mistakesにおける講演で紙幣というものの始まりを説明している。
紙幣の始まり
現代社会では誰もが当たり前のように紙幣を使っているが、別にそれ自体はただの紙切れで、それだけあっても何ができるわけでもないものを、人々が価値あるものとして使うようになった経緯には興味深いものがある。
紙幣とはそもそもどのように出来たのか。ネイピア氏は次のように語っている。
紙幣というもののメカニズムについて、わたしがよく知っているスコットランド銀行を例に解説したい。
スコットランド銀行は1695年に設立された。
スコットランド銀行の株主は資本金を出資し、エディンバラに店を構えた。
銀行の歴史とはそこそこ古い。ネイピア氏はスコットランド人なので、スコットランドを例に話している。
ネイピア氏は次のように続けている。
受付の奥には銀行の資産が積まれてある。資産とはつまり、ゴールドのことだ。
ゴールドは、金貨や金の延べ棒などの形だった。
銀行はまず、人々がそれ自体で価値を持つと信じていた現物資産を大量に店に置き、それで商売をするビジネスだった。
ゴールドを使った商売
まずゴールドを大量に保有した銀行は、それでどういう商売をしたのか。ネイピア氏は次のように述べている。
スコットランド銀行がゴールドを保有しているということは、街に居るすべての人が知っていた。
それからスコットランド銀行が行ったのは、お金を貸すということだ。銀行は預金を預かるビジネスから始まったのではなかった。スコットランド銀行は1710年まで、つまり設立から14年経つまで預金を1つも預かっていなかった。
銀行員とは、つまりは金貸しのことだった。銀行は今ではむしろ預金をする場所と考えられているが、銀行は元々は自分のお金を貸していた。
そしてお金とは、当時はつまり、ゴールドのことである。
ネイピア氏は次のように続ける。
ある日、誰かが店に来て「10ポンド貸してほしい」と言った。なので、スコットランド銀行は「これは10ポンド分のゴールドの預かり証です」と書いた紙をその人に渡した。もちろん金利は取った。
スコットランド銀行はゴールドを貸したわけだが、ゴールドは重いので現物をそのまま貸したわけではない。預かり証を発行して、それを銀行に持ち込めばゴールドを渡してくれるようにしたのだ。
その預かり証は他人に譲渡可能なので、それを他人に渡すことでものを買うこともできるという仕組みである。
当時、そうした預かり証でものを売買するということは一般的ではなかったわけだが、ネイピア氏は次のように続けている。
それを受け取った人はその紙を使って、10ポンドで馬と馬車を買おうとした。
その人は、その紙を受け取ってくれる相手を探さなければならないわけだが、スコットランド銀行がゴールドを持っていることは街中の人が知っていたので、銀行に行けばゴールドを受け取れる預かり証を人々はすぐに受け入れるようになった。
ゴールドなしで流通する紙幣
これが「まだゴールドの預かり証だった紙幣」がどのようにして出来たかである。だがネイピア氏は次のように続ける。
興味深いことが起こったのはその後だ。
重要なのは、ゴールドの預かり証が決済手段として受け入れられた後の話である。ネイピア氏は次のように続ける。
銀行は、実際には預かり証を銀行に持ってきてゴールドを取り出そうとする人がほとんどいないことに気づいた。
誘惑は十分だった。スコットランド銀行は、実際に保有しているゴールドの量以上の預かり証を発行し始めた。
ゴールドは持っていないが、預かり証だけを発行するということである。全員が預かり証を持ってゴールドを取りに来たら、銀行はゴールドを返すことができないのだが。
こうして銀行は紙を売ることに成功した。
結論
ネイピア氏は次のように述べている。
これは、とても良い商売だ。そしてその商売は今も存在している。
銀行がかつて人々から預かっていたはずのゴールドは、紙幣に比べて少しずつ量が少なくなり、1971年のニクソンショックにおいて完全にゼロになった。
だが奇妙なことに人々はいまだに紙幣を使っている。それはもはやゴールドの預かり証ではなく、正真正銘ただの紙切れなのである。
しかし人々は長い年月をかけてそれに気づき始めており、気づいた人から紙幣をゴールドやシルバーへと換金しているのである。
それがゴールドやシルバーが高騰している理由である。
政府の発行する通貨が価値を徐々に減らしてゆくというのは、単に歴史的事実であり、政府による価値の減少を逃れられた通貨は存在しない。
歴史上の様々な通貨の事例については、Bridgewaterのレイ・ダリオ氏が『世界秩序の変化に対処するための原則』で詳しく解説しているので、未読の人はそちらを参照してもらいたい。
