世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏がBloombergのインタビューでこれまでの人生や投資の考え方などについて語っている。
投資というゲーム
ダリオ氏は世界最大のヘッジファンドBridgewaterを作り上げ、そして最近株式をすべて売却して手放した。
1975年に創業して2025年に売却したので、50年ほど自分のヘッジファンドをやっていたことになる。
何がダリオ氏をそこまで引きつけたのか。知識欲か、お金かと司会者に聞かれ、ダリオ氏は次のように答えている。
わたしを引きつけたのはゲームの面白さだった。自分が現実世界でテストされるという感覚が最高だった。
投資家は毎日点数を付けられる。
わたしは今でも市場に魅せられている。すべての市場を今でもいつも見ている。
投資のゲームは死ぬまでやるだろう。
ダリオ氏のようなヘッジファンドマネージャーは世界経済について予想を立て、それに基づいて金融市場においてポジションを取る。その結果、利益を得たり損失を受けたりする。
いわば、投資とは自分の予想を金融市場の中で競わせて、他の人の予想よりも自分の予想が正しかった場合に利益を得ることができるゲームである。
世界経済を予想する方法
ダリオ氏はその業界で世界のトップに立った。だがどうしてダリオ氏は世界経済を予想することが出来るのか。何故他の人には同じことが出来ないのか。
ダリオ氏は次のように言っている。
金融市場のパターンを理解したければ1つの国だけではなく世界中を見なければならない。
金融業界では、大抵の人は専門を1つだけ持っている。日本株のトレーダーであったり、アメリカで債券トレーダーをやっている人もいるだろう。
だが、例えば日本株は米国株の動きに影響されるので、日本株の値動きを予想するためには米国株の値動きが予想できなければならないし、米国株の値動きは金利に左右されるので、米国株を予想するためには債券を分かっていなければならない。
だがほとんどの金融関係者はこうした事実に目をつむり、「日本株のトレーダー」だけをやっているわけである。どうやってやっているのかは筆者には分からないが。
だがダリオ氏はグローバルマクロ戦略の投資家であり、すべての市場が繋がっていることを理解している。ジョージ・ソロス氏とともにグローバルマクロ戦略を創始したジム・ロジャーズ氏は『マーケットの魔術師』の中のインタビューで次のように語っていた。
インドネシアのパーム油がどうなっているかを知らずにアメリカの製鉄株にどうやって投資できるだろうか?
だが、すべての市場を分析するために必要な膨大な知識を身につけようとする人は少ない。だからダリオ氏ら少数の人々だけが世界経済を予想できるのである。
また、ダリオ氏は経済学者については次のように言っている。
また、経済学者は金融市場によるテストを受けていない。だから机上の空論になる。
相場で賭けなければならない。そして間違っていれば罰を受け、予想が正しければ報酬を貰うということをしなければならない。
経済学者は、もし本当に経済を予想できるのなら、市場で実際にそれを実践して投資家になっているだろう。ラリー・サマーズ氏を除いて、意味のある経済分析のできる経済学者がほとんどいないのはそのせいだろう。
歴史の分析
また、ダリオ氏は金融市場を分析する上で必要なこととして、歴史研究を挙げている。
自分がこれまで経験したことのないことが起こった時には、歴史上に同じことが起こったことがあるかどうかを考えなければならない。そうすれば因果関係が理解できる。
これがまさに、ダリオ氏が様々な予想を的中させてきた核心かもしれない。例えば、ダリオ氏は2018年に発表した著書『巨大債務危機を理解する』で、量的緩和が現金給付に進化することを予想している。
そして2020年に現金給付が広範囲に行われたわけだが、それをダリオ氏が予想できたのは、歴史上、量的緩和では経済を支えきれないという事態になった場合に通常行われてきたのが現金給付だったからである。
結論
歴史の重要性については、ジム・ロジャーズ氏の次の話が思い出される。
大学などで講演をする時に、投資家になるためにはどういう勉強をすれば良いかと聞かれる。その時の会話は大体こうだ。
「歴史を勉強しなさい」
「そうじゃないんです、あなたみたいにお金持ちになりたいんです」
「OK、なら歴史と哲学を勉強すればいい」
「一体何を言っているんですか?」
だがそのアドバイスを聞く人は少ない。
筆者から見れば、投資で成功するためにどうすべきかは明らかだ。ダリオ氏もそれを包み隠さず公表してくれている。
だがその道を実際に行く人はほとんどいない。だから世界的にも少数の人しかダリオ氏のようにはなれないのである。
ダリオ氏の仕事についての考え方やこれまでの人生については『PRINCIPLES 人生と仕事の原則』という著書に書かれているので、そちらも参考にしてもらいたい。