世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が、自身のブログで投資対象としてのゴールドとシルバーとプラチナを比較しているので紹介したい。
貴金属の価格高騰
貴金属の価格が高騰している。ゴールドがここ2年上がり続けていることは、誰もが知っているだろう。金価格は次のように推移している。

インフレが収まっていないにもかかわらず、トランプ政権が金融緩和を望んでいること、アメリカが対露制裁に協力的でない国々をドルを使った制裁で脅して回っているため、BRICS諸国や中東諸国の中央銀行がドルを売ってゴールドを買っていることが原因である。
一方で、中央銀行が買っていないシルバーやプラチナは、同じ貴金属でも長らく横ばいだったが、今年の後半になってようやく上がり始めた。銀価格は次のように推移している。

プラチナ価格は以下である。

ゴールドとシルバーとプラチナ
もうずっとゴールドの買いを推し続けてきたエゴン・フォン・グライアーツ氏などは、シルバーは出遅れのためここからゴールドよりも急激に上がってゆくと予想している。
ダリオ氏はどう考えているのか。ダリオ氏は、これら貴金属の比較について次のように述べている。
他の金属もインフレヘッジとして使える場合があるが、ゴールドは投資家や中央銀行のポートフォリオの中で唯一無二の地位を占めている。ゴールドは、もっとも普遍的に受け入れられた交換手段であり、価値の貯蔵手段だからだ。
シルバーとプラチナはゴールドと似ているところもあるが、価値の貯蔵手段としてゴールドと同じレベルの歴史的、文化的重要性を持たない。
ダリオ氏がこう言っているのは興味深い。筆者は、ダリオ氏の見方に必ずしも同意しないのだが、まずはダリオ氏の見解を聞いてみよう。
ダリオ氏は次のように続けている。
例えばシルバーは、かつて通貨システムの中で使われたこともあるが、産業的需要に大きく影響されやすい。それは銀価格の上下の激しさに繋がる。
プラチナは、価値が高いが、限られた供給量や特定の産業需要により強く影響される。
それでシルバーもプラチナも、資産保全という観点から言えば、ゴールドと同じようには安定せず、普遍的に受け入れられることがないのだ。
通貨としてのシルバーとプラチナ
ダリオ氏の理屈には当然ながら一理ある。金価格はほとんど金融需要で動いているが、シルバーは歯科治療など産業用途でも使われており、ガソリン自動車に触媒として使われているプラチナは、シルバーよりも更に産業用途の割合が大きい。
だから経済が傾けば、ゴールドよりもシルバー、シルバーよりもプラチナにとって不利となる。
だがシルバーがゴールドよりも通貨として歴史的に受け入れられていないという意見はどうだろうか。ラッセル・ネイピア氏が、ゴールドは金貨の大きさでもかなりの金額になってしまうため、歴史上実用されていたのはゴールドよりもむしろシルバーだったと指摘していたことを思い出したい。
海外では1万円札に相当する紙幣さえ高額過ぎるとして使われないことが多いが、金貨は1枚で1万円札数十枚分の価値になってしまうのである。
また、シルバーとプラチナに産業需要の割合が大きいというのは、むしろ金融需要でゴールドほど買われていないことの結果ではないのか。これからインフレヘッジで買われるとすれば(今既にそうなりかけているが)、それは産業需要の結果ではないわけで、金融需要の割合はどんどん増えてゆくだろう。
結論
ダリオ氏はゴールドがお気に入りのようだ。筆者もゴールドを保有しているし、トランプ政権が金融緩和でドルの価値を完全に犠牲にし終わるまでは売らないだろう。
だが個人的には、やはりゴールドとシルバーの問題は、買い手の違いの問題だと考えている。中央銀行は既にドルから逃げているので、ゴールドは「既に」上がっているが、これからインフレが悪化し、世界中で紙幣の価値が危うくなってゆくとすれば、大多数の人々がインフレ対策で買いやすいのは銀貨や銀食器であって、高価な金貨を買える人は世界的に見れば少数だろう。
もちろんETFを使えば少額からでも金投資ができるが、ダリオ氏を含め、ゴールドを推奨する人々はインフレになった時に現物でない資産が資本統制を受ける可能性を懸念している。
ドルはどうなるのか。そして貴金属はどうなるのか。
ダリオ氏は、これからのドルの運命について新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)で詳しく説明している。日本語版はないが、英語が読める人はそちらも参考にしてもらいたい。
