引き続き、Citadel創業者のケン・グリフィン氏のBloombergによるインタビューである。
今回は財政赤字と税について語っている部分を紹介したい。
アメリカの財政赤字
前回の記事でグリフィン氏は、アメリカの財政破綻懸念で資金がドルや米国債からゴールドへと流出していると主張していた。
アメリカではコロナ後の金利上昇で米国債の利払いが急増しており、アメリカの財政赤字の半分にまで達している。それで米国債の発行量が増えており、米国債は買い手不足に陥らないのかということが懸念されているのである。
グリフィン氏は次のように述べている。
今のアメリカの財政赤字は、景気後退から抜け出そうとする国が行うような規模のものだ。だが実際には、アメリカ経済は高成長の期間を数年続けている。
これほどの好景気なら、クリントン政権の時代には財政黒字だった。だが今はGDPの6%か7%の財政赤字となっている。
完全に無責任だ。
赤字削減を嫌う政治家
コロナ後の現金給付は世界的な物価高騰をもたらしたが、そのお陰でアメリカ経済はコロナ後好調だ。だが、にもかかわらず米国政府は財布の紐を締めることができない。
何故か? グリフィン氏は次のように説明している。
政治的に不人気だからだ。
同じように米国債の大量発行を懸念するBridgewaterのレイ・ダリオ氏は、実際にワシントンDCまで行って与野党の政治家と話したが、その結果アメリカの債務問題が解決される可能性は5%だと結論した。
要するにダリオ氏は、アメリカの政治家たちが債務問題を解決するという希望をほぼ捨てたことになる。
だが何故政治家たちは財政赤字を縮小しようとしないのか? 支出を減らせば有権者が怒り出すからだ。特に年金問題は日本でもアメリカでも老人が若者からお金を吸い上げる持続不可能な政策として悪名高い。だが年金にメスを入れられる政治家は日本にもアメリカにも存在しないだろう。
財政赤字の行方
だから財政赤字の問題はこのまま継続するしかないとダリオ氏は諦めている。グリフィン氏も同じように思っているだろう。
だが、それでは債務問題はどうなるのか? グリフィン氏は次のように述べている。
増税は誰でも嫌だ。だが、景気が最高潮の時に持続可能な税制を行えないのなら、景気が最悪の時にはどんな税制を行わなければならないのだ?
人は結局、実際に深刻な問題が生じるまで状況を理解しないのである。アルゼンチンは、インフレ政策を批判するオーストリア学派の経済学者ハビエル・ミレイ大統領のもと、財政黒字と経済成長を実現している。
だが、アルゼンチン国民がミレイ大統領を選ぶことが出来たのは、ハイパーインフレであまりに酷い目に遭った後だったのである。
結論
日本人が円安を事前に避けられなかったように、人は人災を事前に避けられない。人は痛い目に遭うまで物事を理解することは出来ない。
だから、これからアメリカに起きることはこうだ。ただでさえ問題になっている財政赤字が次の景気後退において景気対策のために更に大幅に増加し、米国債の大量発行で米国債の買い手不足の問題が本当に表面化する。
つまり、アメリカは借金が必要な状況で米国債を買ってもらえない状況に(というか発行量が多すぎて誰も買い支えられない状況に)なる。
その時に米国政府が決断することは1つだろう。中央銀行に紙幣を発行させ、米国債を買い支えさせるのである。そしてその時にドルは大きく下落することになる。
だが同時に、グリフィン氏の言うようにある程度の増税は避けられないだろう。通貨安だけですべてを解決するには、通貨安の程度が大きくなりすぎるからである。
「 世界最大の経済大国アメリカにそんなことが起こるのか?」と多くの人は思うだろう。だが世界最大の経済大国はこれまでアメリカだけではなかった。大英帝国やオランダ海上帝国はかつて同じ場所に居たのである。
だがイギリスもオランダももう世界最大の経済大国ではない。だから、当たり前だが、世界最大の経済大国が世界最大の経済大国でなくなるということは、普通に起きることなのである。
過去の大国がどのようにして大国ではなくなっていったのかは、ダリオ氏の著書『世界秩序の変化に対処するための原則』で詳しく解説されている。興味のある人はそちらを参考にしてもらいたい。