引き続き、Tudor Investment創業者のポール・チューダー・ジョーンズ氏のCNBCによるインタビューである。
今回は米国債について言及している部分を紹介したい。
財政赤字と金融緩和
金融市場が今年注目しているものが2つある。アメリカの財政赤字とトランプ政権の金融緩和である。
これら2つは連動している。コロナ後の金利上昇で米国債に巨額の利払いが発生し、それがアメリカの財政赤字の半分にも達している。
だからトランプ大統領はどうしても金利を下げたいのである。
トランプ氏はFed(連邦準備制度)に何度も利下げを要求しており、パウエル議長は9月に半ば警戒しながら利下げを開始した。
だが、いずれにしても来年5月にはパウエル氏の任期は終わり、トランプ大統領の選んだ新議長が就任することになる。
財政赤字と国債の発行
債務問題を金融緩和で解決したいのは、アメリカに限った話ではない。ジョーンズ氏は次のように言っている。
今年のことを考えてみてもらいたい。インド、韓国、ドイツ、そして今週日本で選挙がある。
これらのすべての選挙におけるすべての候補者が、経済成長を重視する政治家だ。
これらすべての国が財政赤字を拡大している。
成長を重視するというのは、要するに財政赤字を抑えたくないということだ。その結果何が起きるかと言えば、国債の発行量が大きくなる。
特にアメリカでは今年と来年の米国債の発行量がかなり大きいことが指摘されており、債券市場に大量に流入する米国債に対して買い手が足りるのかということが懸念されている。
米国債の買い手不足
結局、問題は米国債の買い手不足というところに集約される。だが、今のところ債券市場にそれほど大きな問題は発生していない。
その理由についてジョーンズ氏は次のように言っている。
来年の債券発行額の増加は巨額になる。普通なら、市場が消化できる規模を大きく超えた額だ。だが、今はトランプ政権が金融緩和をしようとしている。
中央銀行は、どの時代でも金融緩和によって国債の価値を支えてきた。そしてその度に犠牲になってきたのが通貨の価値である。
Bridgewaterのレイ・ダリオ氏は、トランプ政権の金融緩和によってこれからの相場はドル安になると予想している。
だから、直近の相場で犠牲になるのはドルであって、米国債ではないかもしれない。
だが、トランプ政権の金融緩和はアメリカのインフレ率が上昇しつつある状態で行われようとしている。
そこにトランプ政権の金融緩和が加われば、アメリカのインフレ率は上昇してゆく可能性は高い。
結論
そこから先は、金融市場におけるいつもの情景である。金融緩和でインフレになり、インフレを抑えるために金融引き締めに移行せざるを得なくなる。
金融緩和の支えがなくなったとき、米国債は、米国株は、どうなるのか。
ジョーンズ氏は次のように言っている。
この緩和のサイクルが終わるとき、恐らく1年後くらいになるだろうが、その時に債券市場がどうなるかは非常に興味深い。
Bridgewaterのレイ・ダリオ氏は、米国経済がそこから先どうなるのかを予想するために本を1冊書いている。新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)である。
この悲観的なタイトルの本でダリオ氏が予想するシナリオは悲観的である。リーマンショックのように、これまで単なる株安相場はあったが、米国債も一緒に下落する株安相場は過去100年前後で2度しかなかった。
そしてその両方の事例において米国株も米国債もドルも酷い目にあっている。
トランプ政権による金融緩和がインフレを引き起こして終わるとき、同じ相場が再現されるのかもしれない。
詳しくはダリオ氏の新著を読んでもらいたい。日本語版はないが、英語が読める人は必読である。