アメリカの元財務長官でマクロ経済学者のラリー・サマーズ氏がBloombergのインタビューでトランプ大統領とFed(連邦準備制度)の関係、そしてアメリカの今後の金融政策について語っている。
トランプ大統領のFed批判
トランプ大統領のFedへの批判が続いている。まずはアメリカのインフレ率が2%まで下がっているにもかかわらず政策金利を4.25%で維持していることを批判しており、そして最近では、金融政策を決定するFOMC会合で投票権も持っているクック理事を解任すると発表した。
トランプ氏は、クック理事が住宅ローンの優遇を受けるために「主たる住居」を2つ登録する虚偽を行なったと主張している。
クック理事は抵抗しているが、トランプ氏がクック氏を解任できるとすると、来年5月に任期終了となるパウエル議長や最近辞任を発表したクーグラー理事を含め、3人分の空席ができることになる。
トランプ大統領は金融緩和に積極的な人物を望んでおり、トランプ氏が3人を新たに任命できるとなると、Fedが大きく金融緩和に傾くことになる可能性が高い。
中央銀行の独立性
トランプ政権がFedに大きな影響を与えられる状況に、中央銀行の独立性を危ぶむ声は多い。
そもそも大統領が議長を指名できる時点で独立性とは一体何を言っているのかと個人的には思うのだが、サマーズ氏は司会者に中央銀行の独立性は死んだのかと聞かれ、次のように答えている。
判断するにはまだ早い。
だがこれが過去50年以上で一番激しく一番重大なFedの政治化だとは言えるだろうし、世界各国やアメリカにおけるこれまでの事例、例えばニクソン大統領と当時のFed議長のアーサー・バーンズ氏のことが思い出される。
ニクソン大統領とバーンズ議長は、1970年代の物価高騰を引き起こした張本人たちである。
1970年代、アメリカが物価高騰と景気後退に苦しむ中で、ニクソン大統領はインフレを無視して景気後退から脱出するために金融緩和すべきだと主張した。
バーンズ議長はそれに従い、金融緩和を実行した。そして、多くの読者も知っての通り、インフレは悪化した。
1970年代のインフレ率は結局、年率15%近くまで上がっていき、後任者のポール・ボルカー議長の容赦ないインフレ退治によって1980年にようやくピークを迎えたのである。
1970年代の再来か
明らかに、サマーズ氏は当時の状況と今の状況を重ねて見ている。サマーズ氏は次のように続けている。
金融政策が政治によって歪められ、その状況が広く知れ渡れば、人々がインフレを懸念するようになる。そして高くなったインフレ期待が賃金や商品の価格決定に影響を与え、期待が自己実現をして、インフレが実際に高くなる。
それでインフレをどうにかしなければならなくなるが、誰もが物価上昇を予想し、価格をこぞって上げている状態で、紙幣印刷によってその予想を満たすということをしなければ、経済は景気後退に陥ってゆく。
金融市場はどうなるか。株価は上がって下がることになるだろう。より詳しくは以下の記事を参考にしてもらいたい。
だがもっと明白なのは、ドルが下がるということである。サマーズ氏とも親しいBridgewaterのレイ・ダリオ氏は、珍しくもドル下落の予想を公表している。
ダリオ氏は、最近発売された新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)において、日本の急激な円安の事例にも触れながら、ドルの運命について予想している。
ダリオ氏の新著は日本語版が出ていないが、ドルが長期的にどうなるのかが気になる人で、英語が読める人は、原著を読んでみることをお薦めしたい。