レイ・ダリオ氏、金利が上がった途端に政府が負債で破綻し始める理由を説明する

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が、MSNBCのインタビューで新しく出版した著書『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)の内容を紹介している。

アメリカの財政危機

ダリオ氏は、前著『世界秩序の変化に対処するための原則』ではアメリカの前に覇権国家だった大英帝国やオランダ海上帝国などに焦点を当て、大国が繁栄してから衰退するまでのプロセスと、その間にその国の債務の状況がどうなるかを解説していた。

だが今回の新著ではピンポイントで国家の破綻をテーマとしている。ダリオ氏は、アメリカがその状況に近づいていると予想しているからである。

重要なのは政府債務である。国家は、最初は自分の経済力で経済成長をしているが、大国になると徐々に経済成長を借金に頼るようになる。

ダリオ氏は債務一般について次のように述べている。

信用を作り出すことで購買力が生まれる。それにより負債ができる。

だが、負債が新たな収入を生み出すならば、それは健全だ。

例えば新たな事業のために借金をし、それが新たな収入をもたらして借金を返せるならば、借金は生産的である。

だが、今ほとんどの先進国がやっているように、単に使うためだけに借金を増やせば、政府債務はどんどん増えてゆく。

政府債務が問題になるとき

少し前まで、先進国の政府は財政破綻しないので、政府債務はいくら増やしても良いということがほとんど常識であるかのように言われていた。

事実、金利がゼロである間は、政府債務は問題を引き起こさなかった。だが、それが何故かということをきちんと考えてみたい。

まず、金利がゼロであれば政府は国債の利払いを払わなくて良い。単に国債の残高が積み上がっているだけだ。

国債が満期になれば借金を返さなければならないが、何故それが問題にならなかったか? 新たな国債を発行して借り換えられたからである。

ここで注意してもらいたいのは、国債が満期になった分を新規発行しても、国債の総量は変わらないことである。満期になった国債は消滅し、同じ金額の新たな国債が発行される。

だから満期になること自体が国債の総量を変化させることはなく、世の中に国債を買いたいという需要が変わらず存在するのであれば、供給の方も変わらないので、この状態が続く限り国債の需要と供給は変わらず、政府債務の金額が国債の受給関係を破綻させることはない。

もちろん新たな借金をすれば国債の供給量が増えるが、新たな借金をするかどうかは政府が自分の意思で決めることである。もし需要が足りず、国債の価格を下落させずに発行が出来ないのであれば、新たな借金をしなければ良い。それで景気後退になることもあるだろうが、ともかくゼロ金利の間は国債の受給関係は破綻せずにここまで来たわけである。

国債の利払い急増

だがコロナ後の現金給付が物価を高騰させたように、インフレ政策が本当にインフレをもたらしてしまえば話は違ってくる。

ダリオ氏は次のように述べている。

だが収入を生み出さない負債は、債務の利払いと債務の返済を積み上げ、それが他の支出を押し出す。

米国政府にそれが今起こっている。

インフレになって金利が上がれば、国債に利払いが発生する。利払いは、借金の元本を返すこととは違う。国債の利払いは政府に借金の総額を増やすことを強要する。これがゼロ金利の時代とはまったく違う点である。

ダリオ氏は次のように指摘している。

毎年、米国政府は7兆ドル支出する。収入は5兆ドルなので、赤字は2兆ドルだ。

米国債の利払いは現在1兆ドルだ。

今やアメリカの財政赤字の半分は米国債の利払いとなっている。

利払い増加がもたらす国債下落

元本も利払いも新たな国債発行で賄われる点では同じだが、利払いは国債の残高を増やし、政府は自分の意思でそれをコントロールすることができない。

新たな国債発行が債券市場に受け入れられず、十分な買い手が不足している場合も、ともかく政府は利払いのために新たな国債を発行しなければならないのである。

ダリオ氏は次のように述べている。

今やアメリカは借金を返すために借金を増やさなければならない。

だから新たな国債発行が国債の需要と供給の関係を壊し、国債価格を下落させるとしても、ともかく政府は国債を発行せざるを得ない。

ではどうするか。ゼロ金利の間は中央銀行が紙幣印刷で国債を買い入れることもできたが、インフレになった後では紙幣印刷をするとインフレになる。

だからこうなった時点で政府には3つしか選択肢がなくなる。国債の利払い以外の支出を減らして財政赤字を減らすか、あるいは支出を減らさずに国債を増やし続け、国債価格を下落させるか、中央銀行に紙幣印刷で国債を買わせてインフレと通貨安を引き起こすかである。

ダリオ氏は次のように述べている。

今や債務の支払いは疫病のようにはびこり、他の支出を押し出している。

政府債務を解決する方法

支出を減らせば景気後退に、国債発行を続ければ国債が下落し金利上昇に、紙幣印刷すればインフレになる。

それが本当にインフレになってしまった後のインフレ政策の末路である。

この問題を根本的に解決するには、ゼロ金利だからと無限に積み上げてしまった政府債務を何とかするしかない。だがダリオ氏は次のように指摘している。

アメリカの債務の量は、1人当たりで言えばおよそ23万ドル(訳注:およそ3,000万円)だ。

これを紙幣印刷なしで解決するというのは、アメリカ人は皆この借金を背負うということである。

結論

ということで、アメリカ経済は長期的には明らかに詰んでいる。政府支出を減らさなければならないということは、米国株にマイナスだということでもある。

だから既に米国株のパフォーマンスが他の国より悪くなっているのである。

そして明らかに問題を抱えているドルと米国債からは資金が流出している。ダリオ氏は次のように続けている。

各国の中央銀行や外国の投資家たちは米国債の保有を減らしてゴールドに移行している。

アメリカ経済とドルはどうなるのか? ダリオ氏の新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)には、インフレ政策の帰結として1章すべてを日本経済の解説に費やされた部分がある。

日本は、アベノミクス以後の紙幣印刷による円安によって、円建てで見た株価とGDPを一見増加させる代わりに、日本経済の価値を実質的には(例えばドル建てで見て)大きく低下させ、ドイツやインドに抜かれる状況を作った。

同じことがアメリカに起こるとすれば、ドルや米国株はどうなるだろうか? ダリオ氏の新著は英語版しか出ていないが、英語を読める人は読んでおくべきである。


How Countries Go Broke