DoubleLine Capital創業者のジェフリー・ガンドラック氏が、自社配信動画で米国債の発行量について語っているので紹介したい。
アメリカの利下げ
米国時間9月17日、アメリカの中央銀行であるFed(連邦準備制度)はFOMC会合で利下げを行おうとしている。日本時間で今日の日付が変わってからということになる。
今後の利下げ動向については、それを織り込んで推移する2年物国債の金利に表れている。2年物国債の金利は次のように推移している。

利下げを織り込んで下がっているのが分かる。政策金利は4.25%(上限は4.5%)で、2年物国債の金利が3.5%だから、金利先物市場は政策金利がそれだけこれから下がることを予想しているのである。
ガンドラック氏は次のように述べている。
2年物国債の金利は政策金利よりほとんど1%低くなっているから、Fedの連続利下げが噂されているのも当然だろう。
超長期金利の上昇
さて、このように利下げに対応して短期金利が下がっている一方で、超長期金利は少なくともそれほどは下がっていないのである。以下は30年物国債の金利である。

直近では利下げに反応して下がっているのだが、全体的には短期金利ほど下がっていないか、むしろ長期的には上がっているのが分かる。
これは、短期金利が政策金利に影響されやすい一方で、長期になるほど今後のインフレ率や米国債そのものの需要と供給に影響されやすいからである。
アメリカでは、コロナ後の金利上昇で米国債の利払い費用が財政赤字の半分にも達しており、米国債の利払いのための米国債発行によってこれから米国債の総量が指数関数的に増加し、買い手が足りなくなるということが懸念されている。
超長期債の発行量
だが、米国債のうちどれだけが短期債でどれだけが超長期債なのだろうか? ガンドラック氏は次のように説明している。
1年以下の国債が米国債全体に占める割合は、現在84%と非常に高くなっている。この水準は、リーマンショック前の水準と同じで、この数字は当時そこから68%まで下がった。
だが期間が1年以下の国債の割合はいつもかなり高いのだ。長期国債の金利が1.5%だった時に短期ではなく長期の国債を発行しておくべきだったのだというのはよく言われていて、わたしも同意するが、結局アメリカは短期債ばかりを発行してしまっている。
これは多くの読者にとって少し驚きなのではないか。米国債のほとんどは1年以下の短期債なのである。
そして20年以上の超長期債についてはガンドラック氏は次のように述べている。
また、多くの人々が知らないのは、超長期債が米国債全体に占める割合がどれだけ低いかということだ。
この割合は極小で、たったの1.7%だ。
ベッセント財務長官は超長期債を買い戻して短期債を更に増やすことを公言しているが、超長期債が元々2%以下だということを考えれば、それは大した話ではないのだ。
結論
今回の記事では、恐らく多くの読者があまり知らないであろう数字を紹介した。だがここから考えるべきことがいくつかある。
まず、上に書いたように米国債の買い手不足の問題が超長期債の金利を押し上げていることが市場で懸念材料になってはいるが、総量が極めて少ないため超長期債の価格下落はアメリカ全体にとってはそれほどは問題にならないだろうということである。
超長期債の下落は、それ自体が問題というよりは、アメリカの財務リスクを象徴するバロメーターのようなものだというべきだろう。
そしてもう1つは、仮に米国政府が超長期債を発行して債務問題を先送りにしようとしても、超長期債はたった1.7%の発行量で既に買い手不足が問題になっているのだから、アメリカにとって超長期で借金して財政問題を後回しにすることはほとんどできないだろうということである。
つまり、アメリカの債務問題はほとんど期間が10年以下の米国債の問題だということになる。しかもそのほとんどは1年以下なのである。
したがって、アメリカにとって本当にまずいのは、1年以下の米国債で何か問題が生じることだろう。短期国債の金利を維持することも、何のコストなしに出来ることではない。アメリカが何かの拍子に短期金利を低く留めておけなくなったら、アメリカは1年以内に危機に陥る可能性もある。
先進国はどうなるのか。レイ・ダリオ氏が日本やアメリカの財政危機を予想した新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)をもう一度読み返している。
日本語版はないが、日本について扱っている章もあるので、興味のある人は読んでみてもらいたい。