トランプ政権の財務長官であり、かつてジョージ・ソロス氏のSoros Fund Managementを運用したヘッジファンドマネージャーでもあるスコット・ベッセント氏がMilken Instituteにおけるインタビューでアメリカの長期金利について語っている。
4月の株価下落
イーロン・マスク氏にファックユーと言う場面はあったものの、ベッセント氏は基本的には温厚で礼儀正しい人物であり、新聞記者のインタビューでは金融市場の確信的な部分についてはのらりくらりとかわすことが多い。
だがMilken Instituteはジャンク債の帝王と呼ばれたマイケル・ミルケン氏が設立した研究所であり、ミルケン氏はベッセント氏に直球で金利の動向をどう思うかと聞いている。
ベッセント氏は、まず4月の金融市場の混乱について次のように述べている。
4月に経験したものはよくある調整だった。誰もが金融市場におけるキャリアの中でそれを経験したことがある。
わたしはハイマン・ミンスキー氏の主張を支持している。安定した市場は不安定な市場に繋がる。
恐らく市場は安定した上げ相場を経験しすぎていた。レバレッジを利かせた多くのプレイヤーが非常に大きなポジションを形成していた。そこに不確実性のショックが加わり、彼らが逃げ出した。
株安の本当の原因
まず、ベッセント氏が4月の相場を「よくある調整」だったと呼んだことには異議を唱えたい。4月の相場では株安の最中にもかかわらず米国債が下落した。それは2008年のリーマンショックでも起こらなかったことであり、過去100年ほどの相場の中で2回しか起こったことのないことである。
そしてその2回の両方で、米国株は長期の下げ相場に突入している。
だがベッセント氏の発言の後半部分には一理ある。まず、言及されているミンスキー氏は、市場のバブル形成と崩壊を研究した経済学者である。
ベッセント氏が言いたいのは、トランプ政権の関税は株価下落の原因ではなく、きっかけに過ぎないということである。この点は、筆者が株安の直後に指摘したことと同じである。
この記事では、株式市場はこれまでコロナ後の金利上昇をほぼ無視して上昇しており、金利上昇を加味した適性水準で言えば、S&P 500は4,800ドル程度でなければならないと指摘した。S&P 500は次のように推移している。

去年からずっと指摘していることだが、S&P 500は極めて割高な水準で推移していた。だが上げ相場はそれを壊すような悪材料が出ない限り続く。トランプ政権はこれまでの上げ相場に水を指すきっかけを提供し、元々存在していた株価バブルを壊しかけたに過ぎないのである。
金利は下落する
さて、投資家にとっての問題は、この後株式市場が元の上げ相場に復帰するのか、崩壊しかけたバブルはもう元には戻らないのかである。
そしてそれを決める要因の1つは、やはり金利だろう。ベッセント氏は立場上言えないが、米国株と米国債が同時下落したことは金融の世界では大ニュースなのである。
金利はどうなるのか。ベッセント氏は次のように自分の予想を述べている。
トランプ政権が目指しているのは、インフレなき経済成長を生み出した第1次トランプ政権に戻ることだ。
インフレなき経済成長を生み出し、米国政府の信用リスクを取り除くことができれば、金利は自然に下がってゆくはずだ。
米国債の信用リスクとは、アメリカの財政赤字の問題である。アメリカではコロナ後の金利上昇により米国債に多額の利払いが発生しており、その規模はGDPの4%に達しつつある。財政赤字がGDPの7%ほどなので、その半分が米国債の利払いだということになる。
4月の株安時に米国債が同時下落した背景にはこういう状況がある。著名投資家の誰もが米国債の下落リスクを心配している。それはベッセント氏も同じだろう。
だからベッセント氏は次のように財政赤字の問題を解決しようとしている。
まず政府の借入を少しずつ減らしてゆく。財政赤字を毎年1%ずつ減らしていけば、トランプ大統領が退任する頃には財政赤字は長期的な平均であるGDPの3.5%に戻り、分母が分子より速く大きくなるので、GDP比で政府債務は減ってゆく。
債務はGDPの何パーセントかで計られるので、政府債務の増加率が3%ほどで、GDP成長率が同じくらいに保たれるなら、GDP比の政府債務は増えないということである。
結論
だがベッセント氏にとっての問題は、市場はそう思っていないということだ。
株安の最中に急上昇したアメリカの長期金利は、株価の反発後も結局上がっている。

もう一度言うが、米国株と米国債の同時下落は過去100年ほどで2回しかなかった。1929年からの世界恐慌と1970年代の物価高騰である。そしてその後米国株は長期の下げ相場に突入している。
投資家は少なくとも世界恐慌前後の経済や株価について、レイ・ダリオ氏の『巨大債務危機を理解する』における解説で勉強しておくべきである。
筆者が投資家としてどうしているかは、以下の記事に書いておいた。何の問題もない相場だと考えている。

巨大債務危機を理解する