引き続き、The Solid Ground Newsletterのラッセル・ネイピア氏の、Hidden Forcesによるインタビューである。
今回は世界経済におけるアメリカと中国の関係、そしてそれが金相場に及ぼす影響について語っている部分を紹介したい。
ドルからの資金逃避
4月の株安の最中にドルと米国債が急落して以来、ドルと米国債からの資金逃避が話題になっている。
そしてドルからの資金の逃避先として話題になっているのは何よりゴールドだが、もう1つの選択肢として名前が挙がるのが人民元である。
人民元は今のところ本気でドルの代わりに基軸通貨になろうとしているようには見えない。だが少なくとも、ウクライナ戦争でアメリカがドルを使った経済制裁を振りかざして以来、中東諸国やBRICS諸国がドルの保有から抜け出そうとしており、その中心にいるのが中国であることは事実である。
アメリカの影響から逃れるため、非西側の諸国はドルに支配されない決済の仕組みを構築することに注力している。中国はその中心にいる。
その状況を踏まえてネイピア氏は次のように言う。
世界にはこれから1つのシステムが存在するのか、2つのシステムが存在するのか? これが最初の問題だ。そしてわたしは2つだと思う。
世界的なドル離れは不可逆のトレンドであり、中東諸国やBRICS諸国はドル以外のシステム構築を目指すということである。
中国を中心とする金融システム
ドルに代わるシステムの構築は一朝一夕ではできない長い道のりである。同じく優れたアナリストであるゾルタン・ポジャール氏もすぐに人民元が基軸通貨になるようなことはないと言っていた。
だが投資家にとっての問題は、中国が長期的にそこを目指すのかどうかである。
世界経済に長期的なトレンドがあるのであれば、それは金融市場でトレンドとなる。中国がもし基軸通貨の地位を将来的に得ることを望むのであれば、金融市場では何が起こるのか。
ネイピア氏は次のように予想している。
もしシステムが2つになるのだとすれば、その片方は信用の構築のために大量のゴールドを利用しなければならなくなるだろう。
ドルがウクライナ戦争後のアメリカの振る舞いによって信頼を失いつつあるように、通貨が信頼を得るのはそう簡単なことではない。
だがネイピア氏はゴールドの信用力を使えば人民元は基軸通貨に一歩近づくという。
ネイピア氏は次のように続けている。
人民元は2014年から準備通貨になれるように開放されたと思う。かなり長い間そうなっているが、準備通貨として積み上げられた金額は非常に限られている。
人民元は貿易には使われているが、準備通貨として使われているようには見えない。民間でさえあまり使われていないようだ。
だから中国が自分の金融システムを構築したければ、ゴールドはそのために重要な役割を果たすことになる。
国際紛争の時代におけるゴールド
1つだけ言えることがある。国家同士が互いに信用できない状況があるとき、その国家同士はどちらの国の紙幣によっても取引することができなくなる。
そこで役割を果たすのがゴールドである。相手の政府がいつ紙幣印刷で価値を薄めるか分からない紙幣と違って、ゴールドだけはそれ自身で価値を保証できる。
だから国同士が対立する時代にはゴールドは高騰する。金価格は次のように推移している。

だがこれだけ上がっても以前からゴールドを推していた専門家の声は弱まっていない。それは、ドルからの逃避というトレンドが長期トレンドであり、ゴールドの他に代わりになるものが見つかりにくいからである。
結論
このドルからの逃避、そしてゴールドなど現物資産への資金流入は、Bridgewaterのレイ・ダリオ氏が『世界秩序の変化に対処するための原則』で詳しく解説し、今や専門家の共通見解となっている長期シナリオである。
それが続く限り貴金属相場には資金流入が続くだろう。そして中国が本腰を入れて人民元を中心とする金融システムを作ろうとし、そのためにゴールドの貯蓄が必要であるとすれば、ゴールドの上げ相場はむしろこれからということになる。

世界秩序の変化に対処するための原則